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「なんかガタイ良くなって。かっこいいっすよ」
(かっこいいっていうか、胡散臭さが増したって感じだったけど)
ジムで会った時の謙信を思いだし、恵子は鼻で笑った。
(たしかに良い身体ではある、それは認める)
シャツの襟ぐりから伸びた首のラインが頭に浮かび、僅かに、腹のあたりがゾクリとした。
「恵子姉?」
「ん?ああ、そろそろ鍵開けてくるね」
ドアの鍵を開けて開店準備は終了した。
幹線道路沿いのこの店は車で来る客が多く平日の昼間でも客足は程よい。しかし混み合うほどではないためアルバイトの人数も少な目だ。メインは週末や夜の飲食店が開く時間帯となる。
恵子のような主婦層は平日の短時間を好むからちょうどこの店の早番があっていた。もともと隼人と同じ小売店の営業だったから販売は得意分野だ。
現店長に「恵子姉」と呼ばれるのは年齢のせいもある。何人かの子にはそう呼ばれている。人間関係の相談や恋愛相談を受けることが多いのは年齢に加え少しサバサバした姉御キャラのせいかもしれない。まわりより見た目も年も雰囲気も大人だからだ。
しかし実際の恵子は恋愛の経験も多いわけではなかったし割と奥手な方だった。
彼氏の浮気、好きな女の子の落とし方、男の子同士の恋愛、不倫相談、なぜか色々と打ち明けられる。恵子はひとごとのようにスパスパと答えるから、愚痴りたいだけの子も背中を押してほしい子も心地が良いみたいだ。
ありがとう、ちょっとすっきりした。
そう言われて恵子自身も悪い気はしなかった。
(ホントは全然わかんないんだけどなぁ……)
自分の夫の浮気さえ問い詰められない。
それに、男性経験だって隼人以外まともにあったわけではない。
その隼人とだってごくたまにするだけで、肝心の内容はお粗末としか言いようがない。
もっとも、他人がどうやって"して"いるかなんて知る機会など無いから、お粗末かどうかすら判断がつかない。
(それ以外のことなら全然バッサリ決められるのにな、なんでかなぁ)
「はぁぁ……だぁっもう!」
昼休み、休憩室でコンビニのご飯を食べながら思わず大きくため息と、イライラが飛び出した。
と、同時に休憩室の扉が開いた。
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