謙信という男

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扉を開けたのは謙信だった。 恵子は驚いておもいきりむせてしまった。 「すいません、俺またタイミングが……」 「げほっ、いや違います。こっちのことで、逆にすみません……げほっ」 慌てて謙信は給水器から紙コップに水を汲み手渡した。 「増岡さん、大丈夫?」 「はい、ありがとうございます」 「驚かしてすみません」 「コンビニのご飯慣れなくて、ちょっと喉詰まって」 「珍しいですね」 「今日子供がぐずっちゃって。時間なくて…」 「そうなんですね、お子さんいると大変ですもんね」 「いえ、突然休ませてもらったり、色々融通きくので助かってます」 ふうっと一息ついて二人はまた気まずそうに目をそらした。 「あの、この前、軽々しく声かけて……すみませんでした」 「え?ああ、いや、こちらこそ……」 「なんか、知り合い見つけてテンション上がっちゃって」 意外な言葉に恵子は思わず吹き出した。 (知り合い見つけてテンション上がるの?子どもか?) 「すみません。私は逆に恥ずかしくてキョドっちゃいました」 「恥ずかしい?」 「はい。こんなぽっちゃりさんがジムとか笑われそうで。だから家から遠いところにしたのに、知り合いに会っちゃって、最悪って思って」 「そうだったんですか……なんか、すみません。俺がいて」 「いやいや、マネージャーが悪いわけじゃないですから」 自分の知っている人間が一生懸命トレーニングをしているとわかり、嬉しくなって声を掛けたのに、予想外の反応をされてショックだったらしい。
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