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なんか見た目が全然違うなぁ……
以前と印象の違う謙信をチラチラと観察しながらトレーニングを続けた。
今日の予定のメニューを終え、着替えてロビーに出るとお昼を回ったところだった。
あと3時間ほどで息子の千尋が学校から帰ってきてしまう。自分のお昼ご飯や午後の予定に頭を巡らせていると店の出入り口で謙信と鉢合わせた。
「お疲れ様です」
謙信は見かけによらず紳士的な男だ。
店長時代の外見はもっとチャラチャラした雰囲気だったが、しゃべるとしっかりしているし頭もキレて仕事も早かった。
本社からの指示で時々買い付けにも行っているほどだから、信用もあるのだろう。今は少し癖のある長髪を高い位置で縛り、髭が生えてそれなりに怪しい。
「増岡さん、お元気でした?店じゃなかなか会わないですよね」
「おかげさまで。マネージャーもお元気そうで」
「いやあ、こんなところで会うなんて、びっくりしました」
「ええ、ほんとに……じゃ、じゃあ、私失礼します。子どもが帰ってくるので、お、お疲れさまでした……」
「あ、ああ、そうですね。それじゃお気をつけて。あ、今週また店に顔出す日あるんで、よろしくお願いします」
恵子は上の空でそそくさと駐車場へ向かい車に乗り込んだ。
(あーあ、せっかく遠いところのジムにしたのになぁ。なんか恥ずかしい……でも毎日会う人じゃないし、会費も払っちゃったし。仕方ないか……)
家に戻り用意しておいたお昼ご飯を食べながら、ふと謙信の姿を思いだした。
(それにしても、マネージャー、雰囲気変わったなぁ)
トレーニングの様子ではかなりハードに見えたが、その筋肉は嫌みのないくらいの仕上がりだった。鎖骨から耳の後ろに伸びる乳突筋のラインがくっきりとしていた。Tシャツの袖からのぞく腕は年のわりに弾力がよさそうで、服でおおわれている肉質もそれにふさわしいと想像できる。
仰向けでベンチプレスをしている謙信の姿にドキリとして恵子はブルブルと頭を振った。
「いやいやいや、髭のロン毛って、無いわ~」
子どもが学校から戻るまでに、残った家事と夕飯の準備をする。
習い事の送り迎え、宿題の点検、明日の準備をして、一息ついたところでリビングのドアが開き夫の隼人が入ってきた。
「ただいま」
めずらしく今日は「帰宅の日」だったようだ。
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