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「ああ、それ。そう、ポイントとか、キャッシュバックとか結構よくて。カードのチャージポイントもつくし。お得でしょ?」
恵子は隼人の視線の先を見たが視点は定まらない。
もう一度見た隼人の目は明らかに動揺していた。
夫は今、嘘をついた。
しかし恵子はそれ以上何も聞かなかった。
「たしかに。パパやっぱ賢い。私も使えるところはそっちにしよっかな」
何に使っているかまではその時はわからなかったが、おそらくあれは、女だろう。
食事か?タクシー?それともやっぱりホテル代……?
恵子はぐるぐると頭を巡らせたがすぐにやめてしまった。夫を疑う自分も、少しの女遊びを許容できない自分も、その考えに囚われていく自分も、全部嫌いな自分の姿だったから。
恵子が明細の話をした後からカードの利用が少しだけ戻った。
「最近はカプセルじゃ結構きつくて、ダメそうなときはビジネス泊ることにしてるよ。現金で払うこともあるからさ、明細、いろいろ抜けてるかも」
急に泊まることを決めたとしても、今どきカードで支払えないわけがない。
後ろめたいことをしているのはなんとなくわかる。仕事で疲れて仕方なく外泊している割には機嫌もよく肌艶が良いのだから。
「それがいいよ、体が大事だから、ちゃんと寝られるところに泊ってくれた方が私も安心」
支払いのことだって疑いはじめたらキリがない。
もしかしたら風俗とか、そういうところかもしれないし。
どう対応すべきか悩み、結局何も気づかない妻を演じてしまった。
(惚れた弱味か…いや、もし浮気だったらこっちが追い詰めた分あっちは燃えるんだ。たぶんそうだ)
「明日、お昼ごはん用意しておこうか?」
「いや、その前に出るからいらないよ。……あとさ、もしかしたら夜は帰れないかも」
「わかった。いつも大変だね。終電間に合わなかったらちゃんとベッドのある所に泊ってね」
「ああ、わかった」
こういう時、世間の可愛い嫁はどうするんだろう。すぐに問い詰めるのか?それともシクシクと泣くのか?
しかし恵子はそのどちらにもなれなかった。
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