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隼人はその日、珍しく恵子と同じ時間にベッドへ入った。
子どもが生まれてから一緒の時間にベッドに入る機会が随分と減った。当然、セックスをすることもほとんどない。
近くで寝ている子どもが起きたらと思うとなかなか集中できなかったし、そもそも恵子自体そういった欲が薄れていたのも原因だ。そのせいか、別室で子どもが寝るようになってもなんとなく距離が縮まらない。
だから、隼人が浮気するのはしかたがないと思っていた。さざ波のような欲が時々恵子の体を駆けていく。それはうねりとなっていつまでも内蔵を揺らすが、その波音は隼人にはとどかなかった。
後ろから手を回し、産後ずいぶん経つのに戻らないお腹の肉を少しつまんでくすくすと隼人が笑う。
「やめてよ」
「なんで、いいじゃん。ぷにぷに」
触られてウズウズとしたまま何度も何度も放っておかれた記憶は恵子を惨めにしていく。
隼人は外で性欲を満たし、家では安心を得て、仕事でそれ以外を手にしていく。欲しいものを選ぶ権利を与えられた、「男」である隼人を羨んだ。
「だから運動してるんだもん」
へえ、そう。と気のない返事をした隼人は後ろから恵子の首筋に唇をあてた。ビクッと肩をすくめた恵子を自分の方へ向かせ、鎖骨から肩にかけて唇を滑らせる。
「今日、平気?」
「…うん、どうしたの、急に」
「急じゃないよ、別に」
カードの利用履歴ともう1つ戻ったものはこれだった。
ほとんどレス状態だったが、隼人から求める回数が増えた。
だけどいつもじゃない。時々、思い出したように、だ。
浮気を疑われないようにとの配慮なのかもしれない。
久しぶりの隼人は相変わらずだった。
気持ち良くないわけではない。だけど、いつもどこかもの足りないのだ。
(でも、見向きもされないよりはマシか……)
あっさりとして、中途半端で、満たされたという感覚はあまりない。
でも、何も無いよりはマシ……
隼人はいつも何も着けずにするから、最後は抜いて外で出す。
その場所は決まって恵子の腹か背中だ。
あと少し、あと少しなのに。そう思う恵子の中からそれは抜かれ、寸でのところで引き戻される。結局今日も不完全燃焼で終わった。
でも、セックスなんてこんなものなのだろうといつも思う。比べる相手がいないから分からないのだ。
終わった後の隼人は余韻もなく、役目を果たしたとでも言わんばかりにさっさと下着をつけて寝てしまう。そんな隼人を横目に燃え残った自分をゆっくりと鎮めていく。
時々、こっそり一人で慰めることもある。
そのたび「夫に求められているだけマシなんだ」と自分を納得させている。
たとえその夫が自分に噓をついていたとしても。
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