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春樹から離婚届が送られてきた。
たとえ拒否したとしても、DNAの結果がある限りはどう足掻いても無駄だろう。しかも、すぐに別れるのなら慰謝料などの類いは請求しないという。
「良かったじゃない。きっと、律子に対する思いがあるからよ」
妹はそう言うが、それなら養育費を払ってくれてもいいんじゃないか?
いきなり家から追い出され、生活の基盤を奪い取られて路頭に迷っているというのに、縁切りだけして知らん顔なんて、水臭いにも程がある。
「これからは気持ちを新たに頑張らないとね。陽介はあまりいい顔はしないけど、落ち着くまで居てもいいから」
「…落ち着くまで?」
「アパートと仕事を探さなきゃ。だって、お姉ちゃんは母親なんだから。律子を一人前に育て上げないと」
それはつまり、一人でってこと?
そんなの無理に決まってる。
自分のことだけで精一杯なのに、シンママなんて出来るわけがない。
道子の言うことはその通りだが、まずは目ぼしい相手を探さないと。
安定した仕事に就いていて、連れ子の律子を大切にしてくれて、できれば見た目もいいほうがいい。優しくてお人好しで…托卵に気づかないような、都合のいい男が──。
「リッちゃん、お絵描きでもする?」
妹の夫である陽介が、私の娘に笑いかける。
それはとても、柔らかな微笑みだった。
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