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(2)
「それで、結局どうなったの?」
「見ればわかるでしょう。お父さまの希望通りになったんです!」
騎士団の訓練所で剣を振り回しながら、やけくそで返事をする。私に声をかけてくれた彼は、文官候補のアンドリュー。もともとは王都出身の貴族の三男坊なのだけれど、学生時代に私が引き抜いて辺境に連れてきたのだ。ちなみに剣術そのものは不得意なアンドリューだけれど、分析はかなりうまい。私と話しながらも、びしばしと甘い部分に指摘が入る。
「お父さまのわからずやあああああ」
絶叫しつつ、的をどんどん斬り捨てていく。涙目でも、相手の攻撃をかわしつつ、狙った的を撃破できるのは、両親の訓練のたまものである。感謝はしないけれど。そもそも、みんな「閣下はお嬢さまには大層甘い」なんて言うけれど、お父さまはかなりの頑固者だ。私のわがまま、もとい意見が無条件で受け入れられたことはないというのに。
「いやあ、すごい身体能力だね。閣下仕込みかな?」
「お父さまは、子ども相手でも容赦ないんです。だって、口説き落としたお母さまとの手合わせで、手加減なしでお母さまを打ち負かすようなひとですよ。正直、ドン引きです」
「夫人はその時なんと?」
「女性として無意味に勝ちを譲ってくるのではなく、ひとりの武人として対等に勝負ができたことが嬉しかったそうです」
「まあ、適度に勝ちを与えつつ、やる気を引き出すのは親ではなく祖父母の役割か」
「王都のひいおじいさまも、相当な脳筋ですわ。『お前の母であるマライアも自分の身を守るために強くなった。ヒルダもとっても可愛いから、心配だ。しっかり自分で自分の身を守れるようになりなさい』って、幼子を騎士団の訓練に放り込むんですから」
「いやあすごい話だ」
「おかげで娘の私も、戦闘民族の血を引いていると思われて殿方から敬遠されてしまうのです」
「ひどいなあ。ヒルダは今さら、僕以外の誰にモテたいの?」
「ちがっ、そういう意味じゃありません!」
そう、私が彼を引き抜いたのは彼の才能が魅力的だったからだけではない。彼そのものに心底惚れこんでいたからなのだ。まあ、全然清い関係なのですが! 一瞬あはんうふんなことを考えたせいか、手元が狂いかける。いけない、もっと練習に身を入れなくちゃ。
わたわたと焦りつつ、お母さまの無意味なアドバイスを思い出す。お母さまったら、あんなに自信満々の顔をしておいて。ひどい。
「それにしても、『何が起きても大丈夫なように、剣の稽古をしておきなさい』なんて。そんなことでどうにかなる次元じゃないでしょうに。やっぱりお母さまも、お父さまの味方なのかしら」
「どういう意味だろうね」
「さっぱりわからないの。そういえば、あなたへの伝言も頼まれましたわ。『参加前にルールを熟読しておくように』って。どちらも当たり前のこと。もう本当に無意味でしょう?」
「いや、非常に有益なアドバイスだよ。勝負事はまずルールを確認することから。正論だ」
「は?」
お母さまから預かった大会規約を渡せば、アンドリューは神からの授けもののように恭しく受け取った。そのまま、目を輝かせながら読み込んでいく。どうしましょう、彼の考えがわからない。もしかしてやっぱり私も、脳筋夫婦の娘ってことなのかしら?
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