(3)

1/1
前へ
/7ページ
次へ

(3)

「これは困ったな」 「本当にとんでもないことになりましたわね」  お父さま肝いりの武闘会の会場は、辺境伯領でも魔境と言われる国境沿いのとある山の中だった。お父さま、参加者がたったひとりになるまで、生き残りを賭けて争わせるつもりなのかしら。うっかり国境を越えたら死、うっかり魔物の巣に踏み込んだら死、うっかり崖から落ちたら死、うっかり谷底に落ちたら死、うっかり川に流されたら死。罠しかありませんが、ここ。  ちなみに、どんな理由であれ下山した段階で婚約者になる資格は失うそうだ。大会規約に書いてあった。お父さまは、私の相手を見つけるつもりはないのかもしれない。いくら娘が可愛いとはいえ、嫁き遅れを自ら作るなんて正気なのだろうか。木の上に隠れながら、私はため息をついた。想像していたこととはいえ、お父さまのやり方はやはりえげつない。  まあ確かに、辺境伯領に住み、その家族になるということは実際そういうことなのだ。ただの地位目当てで来たような人間は、この土地では暮らしていけない。死んでもいいほど、この土地が好きか。死んでもいいほど、私が好きか。そのどちらか以外の人間は、生き残れない。こちらが手を下すまでもなく、脱落していく。  それでも時々は、意外なほど骨がある奴が出てくる。あ、あいつはお母さまの周りを昔からちょろちょろしていた奴! ははあ、私と結婚したらお母さまにお近づきになれると思っているのね。馬鹿め。そうは問屋がおろさないわ!  木から木へと飛び移っているおかげで、匂いも残りにくい。死角から狙えば、顔馴染みの男は一瞬で昏倒した。大丈夫、出血とかしないから! 魔物除けもつけているし、ちょっと失神している間に虫にたくさん刺されることはあるかもしれないけれど、訓練がてらお父さまの部下たちが捜索に出てくれるらしいから。夜には家に帰れると思うよ。頑張ってね! 一応目印をつけて、私はその場を後にした。その後もアンドリューの援護をしつつ、敵を倒していく。  そうして周囲の参加者たちはひとり減り、ふたり減り、残すは私たちふたりだけになった。もう、そろそろかな。いいよね? アンドリューと目くばせを交わしながら、私は力を抜く。 「この気配、やはりヒルダだな」  気配を隠すのをやめた途端に、お父さまに見つかった。でもこの言い方だと、もっと早い段階から私の存在はバレていたみたい。ちぇっ。もうちょっと修業を積まなくちゃね。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加