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 私の姿を確認したお父さまは、厳しい声を出した。 「いくら何でもありの武闘会とはいえ、替え玉受験は認めていない」 「替え玉ではありません。私は、私の婚約者を決めるための試験に、自ら参加しただけです。私自身の婚約者を決める場に、私の意志が反映されないなんておかしいでしょう? 武闘会での規約には、婚約者を選定される私本人の参加は許可しないという旨の言葉は書かれていませんでした」  私はアンドリューと熟読した規約をお父さまの目の前に突きつける。擦り切れるまで読み込んだのだ。変な言い訳なんて許さない。ちなみに途中で書類や規約が改ざんされることがないように、王都にお住いの母方のおじいさまにお願いして、書類の控えもばっちり確保済だ。 「主役であるお前が、特定の相手が勝つように便宜を図ることは平等とは言えないだろうが」 「私自身の参加が制限されていなかったように、参加者同士が共闘することも制限されていません。その上単独では、この山で生き残ることすら難しい。お父さまは、そもそも個人の強さだけではなく、周囲の人間をまとめ上げる力を持つかどうかも確かめたかったのではありませんか?」  ぐぬぬとお父さまが口をつぐむ。私たちは、不正なんて行っていない。むしろ私たちほど、大会規約を読み込んだ参加者はいないと思う。意外と、ルールを斜め読みしている参加者も多いのだ。本人たちは気がついていないだろうが、中には即時失格相当の違反者もちらほら存在している。本人たちにわざわざ教えてあげるつもりはないけれど。  私たちはルールの穴を探しながら、何とか自分たちの勝負に持ち込めないかを探り続けた。そこで見つけたのが、私が露払いをする形で彼を守りつつ、最後の一騎打ちは彼に任せるというやり方だったのだ。というか、お父さまにはちゃんと感謝してもらいたい。お父さまの名誉を守るために、あえてここには私たち三人だけしかいないように動いたのだから。 「それならば、最後まで正体を隠して、俺と戦えばよかっただろう?」 「それには及びません。私の愛するひとは、お父さまにちゃんと勝てますわ」 「ここまでお前に守ってもらったというのに?」 「ひとには得意不得意がありますもの。お父さまに話を聞かせるような流れに持ち込めた時点で、私たちの勝ちですわ」 「何を言っているのやら」
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