自業自得。

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自業自得。

 そうして顎をしゃくった。小山の裏手からやかましい声が近付いてくる。俺達が超えなかったフェンスを、そいつらはぎゃーぎゃー騒ぎながら乗り越えた。目を凝らす。酔っ払った若者の男性三人が小学校へ不法侵入をしたらしい。 「何で小学校!?」 「騒いでも文句つけられねぇし!」 「お前天才かよぉ~」  ぎゃはははは、と信じられないくらいデカい笑い声を上げている。 「先輩、通報すべきでしょうか」 「よせよせ、妙な縁を繋ぐな。我々はただ、見ているだけだよ」  だけど不快感が凄い。見過ごすのは如何なものか。悶々としている内に、三人は校庭に小便を撒き散らしたり、酒を飲んだり煙草を吸ったりやりたい放題始めた。ひどいな。 「あー、マジ俺ら無敵!」 「お前、立ちションはやり過ぎっしょ!」 「いいんだよ、こういうのは出来る状態にしている方が悪いの。防犯設備、どうなってるんですかぁ~っ」 「やられる方が悪い理論出たーっ! いじめる方よりいじめられる奴が悪いに決まっているじゃんなぁ!」 「いじめられる奴って大体キモいしウザいんだよ! 小学校とか来ると思い出すわぁ。ムカついてボコボコにしたわぁ~」  途端に小山から、凄い勢いで靄が伸びた。三人の足を掴まえた、と思いきや。ゆっくりと地面を引き摺り小山へ戻って行く。三人は最初こそ何やら騒いでいたものの、振り解けもせず、逃げることも出来ないと気付いたのか、罵声は悲鳴に変わっていった。だけど気付く者も無く。助けが現れたりもせず。  見逃されることも無く。  小山へ沈み、見えなくなった。  後には静けさが戻って来た。  先輩、と再び震える声で呼び掛ける。 「言ったろ、自業自得だって。いじめっ子が小学校の真ん中で狼藉を働いた挙句、いじめられる方が悪い、なんて宣言したら恨みを買って当然さ。自らの行いはきちんと返って来るのだよ」  さて、と先輩の大きな目が俺を見詰めた。 「私はただの傍観者だ。あいつらに特別な思い入れも無ければ別に縁も結ばれていない。故にこのまま関わらず帰るつもりだ。君はどうする? 私とは違い、見てしまった以上、助けたい? 物理的に掘ってみたら案外ひょっこり出て来るかもね」  唇を噛む。本当に僅かな時間だったけど、目撃した三人の行動を思い返す。  そして、黙って首を振った。了解、と先輩が歩き出す。足は家に向かっていた。 「先輩」  組んだ腕に力を込める。うん? と大好きな奥さんは俺を見上げた。 「日頃の行い、気を付けます」 「それがいいと思うよ」  こんなに身に染みたことは無い。最後に一度、振り返る。小学校の片隅で、小山は静かに佇んでいた。  前を通りかかった際、引きずり込まれることの無いよう過ごします。心の中でそう誓った。小山は無言ではあったけど。頷きを返してくれたように思えた。
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