50.夕食を家族で ***SIDE公爵

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50.夕食を家族で ***SIDE公爵

 こんなに早く帰宅するのは、どのくらい振りか。思い出せないが、日が沈む前に馬車に乗り込んだ。目頭を押さえた文官達が俺を見送る。揃って頭痛でもするのか? 馬車の外の景色を見るともなしに眺めた。考えてみたら、ずっと働き詰めだった。  早く帰るために内容を精査して気づいたが、半分は俺の決裁が必要ない。箔付けに紛れ込ませた書類だろう。命じて分類させ、今後は持ち込ませないよう指示を徹底した。これで決裁書類が半分に減る。さらに不備を手直しすることをやめ、すべて突っ返した。  机の上にある書類箱は三つだ。一つは未処理、隣が決裁済み、一番右に不備・返却がある。今まで左の二つしか使わなかった。不備を突っ返して直させるより、自分で修正した方が早いからだ。それをやめたことで、仕事量はさらに二割は減る。 「あれほど不備が多いと思わなかったな」  何を提出してもきちんと修正されて通過する。そう考えれば、手抜きをする輩も増えるはず。分類作業の合間に、文官から聞いた。彼らにも負担を掛けていたのなら、それぞれの職責をきちんと果たすよう各部署に通達するか。月に一回は徹夜作業が発生したが、今の分類を徹底すれば防げそうだ。  仕事の効率化で文官の態度が変わった。家族の元へ早く帰って食事を一緒に摂れるのは、今後のためにも大事らしい。素敵な奥様を得られたのですね、と言われたが……意味がよくわからん。  馬車が屋敷に到着し、玄関ホールで家令フランクに迎えられる。当たり前の光景に、思わぬ人物が加わった。息子レオンを連れた妻だ。アマーリアは疲れたでしょうと労った。その一言に胸がざわつく。落ち着きなく騒がしい感情に混乱しながら、レオンの幼い挨拶を見つめた。  何を言えばいい? 分からない。こんな時、父は母に何か声を掛けていただろうか。いや、そもそもこんな場面を見た記憶がない。妻は夫を出迎えるものらしい。 「夕食は家族で摂ろう」 「家族、ですか?」 「ああ」  なぜ聞き返されたのか。家族とは同じ家名を持ち、同じ屋敷に住む者を示す単語だろう。問い返さずとも、俺と妻、息子しかいない。もしかしたら、離れに住まわせた実家の家族を思い浮かべた可能性もあるが。連れて来たいならそう言えばいい。拒むつもりはなかった。  玄関の正面にある階段ホールは、装飾された手摺りと赤い絨毯に彩られている。華やかな貴族の邸宅になくてはならない場所だった。登り切れば領地の屋敷を描いた絵画があり、左右に分かれて通路がある。その階段の中ほど、踊り場で立ち止まった。  足音がない。当主や妻子の私室は見晴らしの良い二階にあるはずだが……振り返っても彼女は見上げるばかりだ。首を傾げたが、後で部屋に戻るだろうと放置した。  執事ベルントに聞くまで知らなかった。アマーリアとレオンの私室が、一階に変更されたことを……。今月の報告に記載予定らしい。客間のいくつかを改造して整えた。部屋はたくさんあるので構わないが、胸の奥でもやもやした。
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