06.おやすみなさい、レオン

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06.おやすみなさい、レオン

 料理長は歓迎の意味を込めてコース料理を用意してくれた。そのことにお礼を伝えて、食堂へ出向いて食べなかった失礼を詫びる。その上で、今後はすべての料理を一度に出すよう伝えた。  三人の弟妹を育てた私の知る限り、レオンの食事量は極端に少ない。同年齢の子より体が小さく、発育が遅れている印象を受けた。何より乳母がいない。使用人達がどれだけ心を傾け手を尽くしても、寂しかったんだと思う。誰に頼っていいのか、定まらないから不安定になる。  孤児院のボランティアで見たことがある症状だった。こんなにお金があって恵まれた環境で育っても、何も持たない孤児院の子と変わらないなんて。母親が子供の成長に果たす役割の大きさを思い知る。足りなかった三年分を、レオンはこれから一気に吸収するはずよ。  食事はまとめて並べ、好きな物から食べたいだけ与える。まずはここからね。食事への興味があった分だけ助かるわ。皆の過去の対応を褒めながら、私はこれからの方針を決めた。 「公爵夫人としての社交は最低限にします。代わりにレオンの教育と友人作りに尽力するわ」  社交は最低限と契約にも記されている。ならば大切な跡取りである可愛いレオンを優先しても構わないはずだった。離婚できないなら、ずっと私の息子だもの。もう嫌と音を上げるほど溺愛しちゃうわよ! 「承知いたしました」  そのように手配いたします。有能な家令フランクを通して、屋敷中に命令が徹底される。まずはレオンの安全で豊かな生活、教育は数年先から。それまで社交を可能な限り断って、一緒に過ごす。この計画に誰も反対意見を出さなかったことに、私は心から安堵した。 「では、今夜はもう休みます」  抱っこ状態でしがみ付いてうとうとするレオンの黒髪を撫でながら、にわか公爵夫人の私は微笑んだ。今日から公爵家の広い屋敷で暮らすことを心配した時もあったけど、この子が一緒ならきっと楽しいわ。  抱いていくと手を伸ばす執事ベルントに首を横に振り、私は軽い幼子を抱き上げた。一般貴族令嬢と違って、私は逞しいのよ。末っ子の双子はもう八歳、つい先日まで両側からしがみ付かれて、腕の力でぶら下げていたんだから。  レオンが軽すぎて不安になる。羽が生えて飛んで行ったりしないわよね? 背中を撫でて確認し、ほっとしながら寝室のベッドに下ろす。隣に滑り込む間も、手を触れたままだった。もぞもぞ動くレオンを胸元に抱き寄せ、両手でぎゅっと拘束する。  幼子ってこの形が落ち着くのよね。丸くなろうとする手足を宥めるように、小さな声で歌った。子守歌に誘われたのか、レオンの眠りが深くなる。呼吸が落ち着いたのを確認し、耳元で「おやすみなさい、レオン」と囁いた。  ふわっと表情が柔らかくなったのを見ながら、目を閉じる。腕の中にいる温もりが動くたび、少し眠りが浅くなる。この感じが懐かしかった。寝不足になった過去が、上手に眠りをコントロールしてくれる。抱き締め直して、すぐにまた深い眠りに落ちた。  明日は何をして過ごそうかしら、積み木や絵本、散歩もいいわね。そんなことを考えていたからか、レオンと手を繋いで散歩する夢を見た。
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