いつか過ぎ行くこのひとときに

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 6歳ぐらいまでは、臆病なよく泣く子供だった。  そのくせ、どこか頑固なところもあった。  小学校三年生ぐらいまでの姿はよく覚えている。  そのあと、単身赴任が続いた。  一度浮気をした。隠し通せると思ったが、どうやってか妻は察した。  そこで家族がバラバラにならなかったのは、ほとんど妻の我慢と努力によってのことだ。  数年ぶりに見た娘は、もう中学校の制服を着ていた。  浮気の事を娘が知っているのかどうか、わからない。  そういう心配をする姑息な自分を、私は嫌悪している。  だからといって、何が許されるというわけでもないのだが。  反抗期の一年と少し、むしろ私のほうが娘を避けた。  私は娘を、娘の眼差しを恐れた。そういう私を、娘はたぶん軽蔑していた。  そうして多くの子供がするように、きっと娘は学んだのだ。  あきらめることを。  立派な大人なんてどこにも居はしないということを。  結局のところ、私は何もしていない。  父親らしいことなど、何一つ。  ただなんとなく許されているにすぎない。  特にぶつかった記憶がないことが、上手くやれている証しになるわけではない。  そんなふうに過去を振り返って、私は自分を偽っていることに気づいた。  娘と上手くやれているなど、勝手な思い込みにすぎなかった。  娘にとって私はきっと、他人も同然だった。        
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