お目覚めですよ

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 ジリジリ、ジリジリ!!  お目覚めですよと鳴り響くアラーム音。けれど、1度目では彼は起きない。 「あと1回だけ」  デジャブ。昨日と同じ声を聞く。  1分後。またジリジリ鳴りながら彼を起こしているが、伸ばしている右手が意味もなく上下左右に動いていく。 「あ、あれ?あれ?」  少し老けた彼が丸メガネを取り、装着する姿を右手が届かないすみっこのほうで見守る。 「え、えーーーー!!」  目覚まし時計が動くのはよくあることだよ。  昨日は転んじゃったし、その前の日は床に叩きつけられたし。  わたしの移動手段に驚いている彼に向け録音してあるスイッチを上げて流していく。 『あと1回って何べん言えば気が済むん?ケンヤくん』  録音してあるのはわたしの昔の声。ずいぶん若い声に懐かしくなりながら、彼を見る。 「夏菜子(ななこ)さん、あの世でも元気なんだろうなー」  あの世に行けずにケンヤのそばで毎朝見守ってるわ!!  そう言いたいけど言えない。  だってわたしの魂は目覚まし時計の中に眠っているから。  ジリジリジリジリジリジリ・・  言えないから、ジリジリ鳴らして反論する。  元気だから安心して!! 「はいはい。わかりました」  懐かしむ前に支度しなさいとわたしはまたジリジリ鳴らしていた。 おわり
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