22.最後の記憶

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22.最後の記憶

 翌日、蓮は病院の正面玄関で雛子と待ち合わせをした。  先に着いた蓮のもとに、酷く緊張した表情を浮かべた雛子がゆっくりと近づいてくる。 「おはよ、蓮」 「ん、おはよ」  短く挨拶を交わして、二人は詩音の病室へと向かう。  コンクールの時でもこんなに緊張しないのに、心臓が今にも口から飛び出してきそうだ。  詩音は、二人どちらかの記憶を失っているだろう。そしてそれはきっと、蓮だ。詩音と雛子の間には深い絆があることはよく分かっているし、共に過ごした時間の長さが圧倒的に違う。  だけど、詩音が蓮のことを忘れていても、また初対面から始めればいい。そして彼女の笑顔のために、何度だってピアノを聴いてもらおう。  昨夜、相馬に話を聞いてから、蓮はそう覚悟を決めていた。   「多分ね、詩音はヒナのこと忘れてると思う」  エレベーターの中で、お互い前を向きながら雛子がぽつりとつぶやいた。  思わず雛子の方を見ると、彼女は淡々とした表情のまま階数表示を見つめている。 「蓮は、詩音にとって特別だから。あたしにとっての悠太くんと同じ。意味、分かるでしょ」 「それは……」  言葉に詰まった蓮が口を開く前に、エレベーターは最上階へと到着する。  蓮と同じように覚悟を決めた表情の雛子は、先に歩き出した。  それでも、扉の前でノックのために握りしめた手は、微かに震えている。  いつも通り三回ノックしたあと、雛子はゆっくりと扉を開けた。
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