22.最後の記憶

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「……誰?」  ベッドの上で身体を起こして座った詩音が、ぼんやりとした表情でこちらを見る。焦点の合わないような黒い瞳が蓮と雛子を見つめるから、二人は息を詰めて黙りこくる。  ふわふわと視線をさまよわせていた詩音が、蓮を見てふわりと笑った。いつものような笑顔ではなく、どこか儚い笑みに胸が苦しくなる。 「蓮くん、おはよう。来てくれてありがとう」  詩音の言葉に、雛子がびくりと身体を震わせた。 「……蓮くんの、お友達?」  雛子を見て首をかしげる詩音に、蓮は必死に笑顔を浮かべてうなずいた。 「うん、俺の友達。詩音ちゃんともお友達になってほしくて」 「そうなんだ。はじめまして、尾形詩音といいます。お名前を聞いてもいい?」  微笑みを浮かべた詩音が、軽く首をかしげて雛子を見る。雛子は、まっすぐに詩音に手を差し出した。 「高瀬雛子。ヒナって呼んで」 「ひなちゃん、よろしくね」  雛子の手を握って、詩音が笑う。その笑顔も、呼び方も、昨日まで雛子に向けられていたものとは全く違うことが悲しい。 「蓮くんはね、ピアノがすごく上手なの。ひなちゃんも、一緒に聴こう?」 「うん、楽しみ」  明るくうなずく雛子を見て、詩音も嬉しそうに笑う。 「あのね、明日は蓮くんピアノのコンクールなんだって。私も応援に行くの。えぇと、何時からだったかな……」  弾んだ声で予定を確認しようと手帳を開いた詩音は、指先でカレンダーの日付をなぞる。だけどその手は、ぴたりと止まって動かなくなった。 「……ヒナって書いてあるのは……、ひなちゃんのことかな。悠太って、誰だろ」  虚ろな口調でつぶやいた詩音は、ゆっくりと顔を上げると蓮と雛子を見つめた。その瞳に、みるみるうちに涙の粒が浮かび上がる。
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