駅にて

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駅にて

関西のとある駅 父、正田泰孝(しょうだやすたか)の代理で、私、正田弥生(しょうだやよい)は、取引先企業の広報イベントに参加した。 『ショーダ』といえば、幼児期のクレヨン、小学生の鉛筆、中高生以降大人の書きやすいボールペンナンバーワンの座は40年以上どこにも譲らない、筆記具が有名な文具会社だ。 文房具好きの私は迷いなく、父が率いる『ショーダ』に就職したが、社長の娘ということで他の社員さんが気遣うことが少ない部署に行くよう、父に言われた。 入社から6年…初年度は文具に触れることのない仕事を残念に思いつつ…今も変わらず総務で社員研修の準備と冠婚葬祭の担当を主にしているが、これも企業にとって大切な仕事だと最近よく考えるようになった。 週末のイベント参加を終えた、日曜日の18時頃、電車に乗ろうとした駅で わぁ…ピアノを発見… “ご自由にお楽しみください” と案内があるけれど、誰も気に留めることなく足早に行き交うだけ。こんなところで弾いたこともないけれど、何故か…白いピアノに惹かれたのかな…私は荷物を横に置いて浅く腰掛けると バッハの“主よ、人の望みの喜びよ“ を初めての鍵盤を探るようにしながら弾き始めた。少し間違えつつも、指が鍵盤に慣れたかな…という頃、荷物と反対隣に人の気配を感じて演奏を止めた。弾きたい人が来たのかもしれない。
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