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限界の向こう側
部屋の片隅に置かれたフィットネスバイク。埃をかぶり、長い間使われることのなかったその機械に、今、ニートの俺はまたがっている。何かが変わるわけじゃない、ただ、何かを変えたいという思いだけが俺をこの行動に駆り立てた。
2km:
ペダルを漕ぎ始めてまだ数分。心臓が少し早く鼓動を打つが、体はまだ軽い。目の前の小さなディスプレイに表示された「2km」の数字を見つめながら、俺は自分に問いかける。
「これが終わったら、何が変わるんだろう?」
脳裏に浮かぶのは、ただ一日の終わりが少し早く訪れるだけの退屈な日々。けれど、この小さな変化が、何かの始まりであればいいと思った。
4km:
足が少し重くなってきた。息が上がり、額にうっすらと汗が滲む。この程度で辛いとは、自分がいかに弱いかを痛感させられる。
「昔は、もっと簡単に走れたのに…」
いつからだろう、何もかもが億劫に感じられるようになったのは。それでも、俺はまだペダルを漕ぎ続ける。止める理由が見つからないから。
6km:
苦しさが増してくる。膝が痛み、呼吸が乱れていく。それでも、俺はペダルを止めない。ここでやめたら、また何も変わらない日常に戻るだけだ。
「…この痛みは、本当に意味があるのか?」
ふと考えるが、答えは出ない。ただ、一つだけ分かるのは、この痛みが俺を生きていると実感させるということ。
8km:
心臓が激しく鼓動を打ち、体中が悲鳴を上げている。もう限界かもしれない。止めたいという思いが頭をよぎるが、そのたびに自分を奮い立たせる。
「今やめたら、何も変わらない。」
そう、自分に言い聞かせながら、足を動かし続ける。どこかで、何かが変わるかもしれない。そう信じて。
10km:
半分まで来た。けれど、もう体がついていかない。足は鉛のように重く、呼吸は浅く、早くなりすぎている。目の前の数字が、ただただ遠く感じられる。
「…無理だ。」
その言葉が心に浮かんだ瞬間、俺は大きく深呼吸をした。ここでやめたら、今までと何も変わらない。ただ、それだけは嫌だ。
12km:
「まだだ、まだやれる。」
自分に言い聞かせるが、体は限界に近づいている。汗が滝のように流れ、視界がぼやける。それでも、俺はペダルを漕ぎ続ける。この痛みが、何かの証明になると信じて。
14km:
「…足が、動かない。」
ペダルを漕ぐたびに、足に走る激痛が襲う。これ以上は無理だと体が訴える。それでも、俺はその声に耳を貸さない。ここでやめたら、また同じ日々が続くだけだ。
「こんなことで…終わりたくない。」
そう自分に言い聞かせながら、俺は歯を食いしばり、足を動かし続けた。
16km:
体中が叫んでいる。心臓が破れそうなほどの痛みを感じながら、俺はペダルを漕ぎ続ける。何も考えられない。ただ、前に進むことだけを考えている。
「…あと少し、あと少しで、何かが変わるかもしれない。」
その思いだけが、俺を支えていた。
18km:
息が詰まりそうだ。足は感覚を失い、痛みすら感じなくなっている。それでも、俺はペダルを漕ぎ続ける。もう止める理由も、続ける理由も分からない。ただ、この瞬間が、俺にとっての全てだと感じていた。
「…これで、変わるのか?」
その答えは、もうどうでもよかった。ただ、俺はこの痛みの中で生きているという実感を得ていた。
20km:
ついに、20km。ディスプレイの数字が目に入った瞬間、俺はペダルを止めた。体中の痛みが、一気に襲ってくる。息が荒く、体は汗でびっしょりだ。
「…やり遂げた。」
そう呟いた瞬間、俺は目を閉じた。これで何が変わるかは分からない。でも、少なくとも今、俺は自分の限界を超えた。次は、何か別のことに挑戦してみようか。そんな思いが、心のどこかに芽生えた。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、そして、新たな一歩を踏み出した。
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