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コーヒーカップを置いた滝沢が、どこか低い声が言う。美緒は何かを悟り、びくっと体が跳ねた。
滝沢は美緒をまっすぐ見る。
「別れてほしい」
「……え」
「それが言いたくて今日来ただけだから」
滝沢はそう言い捨てて、伝票を手に取った。コーヒーはほとんど残ったままだ。あまりに急なことに、美緒は慌てて引き留める。
「待って、なんで急に?」
「急じゃない。ずっと考えてた。美緒ってさ、付き合ってても甘えてこないよな」
「そ、そんなこと」
「初めは新鮮だなと思ってたけど、やっぱ付き合ってくなら可愛げがないと。もう終わりにしよ」
彼は全く美緒の話を聞こうともせず、決定事項とばかりに話を切り上げる。美緒を見る目が冷たく、美緒の心臓がひんやりとした。
「もうちょっとその性格なんとかしないとだよ」
滝沢はそう言うと、さっさと店から出て行ってしまった。あんまりな別れ話に、美緒はただ呆然としていた。
会ってほんの数分。一年も付き合ってきて、最後が、これなの?
(……意味がわからない)
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