大川美緒の心の中

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 会社では笑うことも少ない美緒が、滝沢の前でだけ表情を緩めることが出来た。仕事に疲れた時は弱音を吐いたりもした。これが甘えてないというなら、もう自分には甘え方なんてわからない。  確かに他の甘え上手な女子と比べたら、美緒は甘え足りないのかもしれない。何かを買ってほしいだとか、頻繁に連絡を取りたいだとかのわがままは言わなかった。だがそれは美緒が自立していることを表しているのであり、滝沢はそんな美緒が好きだと言っていたのに。  こんなあっさり終わりが来るとは、完全に予想外だった。 「あの、お客様……ご注文は?」  はっと気が付くと、店員が困った顔でこちらを覗き込んでいた。美緒はメニューを手にすることもなく、一人俯いていたのだ。 「……すみません、帰ります」  今、ここで一人食事をしていく強さはさすがにない。美緒は荷物を手に取り、逃げるように店から出た。  ふらふらした足取りで電車を乗り継ぎ、なんとか家までたどり着く。カバンを床に放り投げ、そのままの状態で崩れ落ちた。抑えていた涙がぶわっと浮かんでくる。
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