4976人が本棚に入れています
本棚に追加
悲しさと悔しさで、美緒はせっかく止まっていた涙をまた溢れさせた。
翌日、腫れた目を何とか誤魔化し、美緒はいつも通り出社した。本当は休んでしまいたかったが、逃げるようで自分が許せなかった。
それと、こんな時だからこそ仕事を頑張らなくてはならない、という思いが強かった。今、自分に残ってるのはもう仕事しかない。それをがむしゃらにやっていれば、きっと何かいいことが起こるはず。失恋ですべてをダメにするようじゃ、一人前の社会人とは言えない。
出社して普段通り自席につき、飲み物さえ飲まず、美緒は目の前の仕事に集中して取り組んだ。やるべきことは山積みで、仕事には終わりがない。
ありがたいことに、仕事が始まると余計なことを忘れられたのでよかった。滝沢の事も、ゆりの事も考えずに済む。必死に頭を回転させて仕事を捌いていく。
「大川さん、今日特にオーラ凄まじくない?」
「はや~かっこええ」
周りの声も、本人には届かない。
しばらくパソコンの画面だけを見て過ごしていた美緒がようやく手を止めたのは、昼が近くなった頃だった。すっかり時間を忘れていた美緒はふうと一旦息を吐き、肩を回す。さすがに必死になりすぎて、肩に力が入っていたのかがちがちになってしまっている。昨晩はゆっくり湯舟にも浸かれなかったし、体が強張っているかもしれない。
(でも、やっぱり来てよかった。家にいたんじゃ、きっと色々考えちゃうもんね)
一人でいたらきっと泣いてばかりだった。滝沢との思い出も多く詰まった家は、今の美緒には辛すぎる。何度も遊びに来たし、料理を作ったことだって……。
そういえば、滝沢から合いかぎを返して貰っていないじゃないか。一度連絡を取らないと。
最初のコメントを投稿しよう!