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まさか堂々と名前を言ってくるとは思っていなかった美緒は、さすがに視線を泳がせた。その変化を、ゆりは見逃さない。
「……まあ、知っています」
「私、滝沢さんとお付き合いしてるんですけど、ちょっと恋愛関係で悩みがあってー。大川さん、聞いてくれませんか? 大川さんならいいアドバイスくれそうだなって!」
一体この子は何を言っているのだろう? さっと血の気が引き、美緒の手が震える。
分かってるのだろうか? いや、もしかしたら彼が二股掛けてたことを知らない可能性もあるかもしれない。でも、そうだとしたらどうしてこのタイミングで私に? 雑談なんかしたことないのに。それに、あのSNSはーー
美緒の頭の中はぐるぐると混乱する。泣きそうになるのを必死でこらえ、きゅっと強く唇を結んだ。
(泣くわけにはいかない)
今は仕事中なんだから。美緒は自分に言い聞かせる。
「すみません、今仕事中なんです。プライベートなお話はあとでお願いします」
かろうじてその一文だけ言えた。泣かずに言えた自分にほっとしたのもつかの間、隣からゆりのすすり泣く声が聞こえてきてぎょっとする。
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