大川美緒の心の中

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 再びキーボードを叩いていく。表情は無。きりっとした目元に固く結んだ唇、伸びた背筋。無言で仕事を捌いていくその様子を、周りの社員がこっそり噂する。 「今日もさすが、大川さんはぶれないなーまじで近寄りがたい」 「あの指の速さ、キーボードがついてこれないんじゃない?」 「でもほんとかっこいいよ」  口々にそう言われてるのを、本人は気づかない。  大川美緒、二十九歳。乱れのない真っ黒なセミロングの髪に、長いまつ毛。ゆりとはタイプが全く違う綺麗め美人。仕事は的確で速く、誰もが一目置いていた。  口数は少なく、笑顔もあまり見せない彼女は、人と群れない。近寄りがたいと周りから思われており、彼女に雑談を振る人間はあまりいない。 『一人が好きなんだろうな』『仕事以外の話を振っても答えてもらえなさそう』『食事? 誘えるわけない』  口々にそう言われる美緒だが……。 「なーなー、今日終わったらみんなで飲みにいかない?」 「お、いいねー。行ける人たちで行こうよ。あ、江本さん来れるー?」 「はい、行きまーす!」 「おっ、やったねーじゃあ他にも適当に……」
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