大川美緒の心の中

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 誰かがそんなことを言いだして、再び美緒の手が止まる。キーボードを打ち付けていた手が、ふるふると震えながら十センチほど持ち上がり、すぐに戻った。挙手したかったらしい。 (いいないいな……飲み会……私も行きたい……でも、手が上がらない……行ったところで、周りの雰囲気を悪くさせるかも……ああ、盛り上がる一発芸でも何かできればいいのに……)  美緒は無表情でそう思っていた。    美緒は一人が好きでも口数が少ないわけでもなく、単なるコミュ障だった。  本来は人並みにしゃべるのは好きだし、飲み会などの参加もしたいタイプだ。だが、自分から話しかけられない内気な性格と、何よりその見た目からイメージを作られ、完全に本当の自分を出すタイミングときっかけを失っていた。  本当はここで『私も飲み会参加します!』とでも叫んで挙手できればいいのだが、そうもいかない。緊張で固まってしまい、声が出せなくなる。おかげで、顔に力が入って余計きりっとなる。周りは『大川さん、凄く集中してるね……やっぱり声掛けないでおこう』の悪循環。  職場では表情筋が固くなってしまう。
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