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会社に入社して長く経つが、いまだに友達と呼べる人はいないし、同僚と雑談をすることもほぼない。すっかり一匹狼のキャラが根付いてしまっている。本当は頭の中でみんなにウケる一発芸を取得したがっているなんて、きっと誰も想像できない。
「あの~大川さーん?」
そう声を掛けられハッとする。周りを見てみると、すっかり人気が無くなっている。仕事に集中しすぎて時間を忘れていたらしい。定時はとっくに過ぎていた。
振り返ってみると、立っていたのはゆりだった。彼女は書類を手に取り、眉を下げている。美緒は心の中で『うわ……』と呟いた。そんな美緒の反応に気が付いているのかいないのか、
ゆりは続ける。
「これ私には難しくって~……大川さんになら簡単にできると思います。お願いします!」
にっこり笑って差し出されたのを、じっと見つめる。
初めは本当に親切心から仕事を手伝ってあげた。彼女が唸りながら困っていたので、見本を見せるつもりで仕事を変わった。ゆりは美緒より年下なので、先輩としてそれが正しいやり方だと思ったのだ。
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