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ここは、標高2000メートルの頂上にある山頂カフェ『頂』。私は今日も早起きをして、カフェに来るお客様の笑顔を想像しながら、パンを焼き、カレーを煮込み、珈琲豆を煎る。
そろそろ日の出の時間。私は作業の手を止めてカフェの外に出る。何も遮るものが無い自然界の中、太陽の光を全身に浴びることで本当の1日が始まる。私は背筋を伸ばし朝日をじっと見つめた。
「さぁ、今日も楽しい1日にしましょ。」
私は山猪雅。この山頂カフェ『頂』を1人で切り盛りしている。
"コケコッコー!!"
ニワトリの形をした置き時計が鳴いた。時刻は7時、オープンの時間だ。
私は小さな姿見で身なりを整えてから、入口ドアの内側に掛けてあるプレートをくるりと回転させて、『CLOSE』から『OPEN』に変えた。
カウンターキッチンで珈琲をドロップしていると、カランカランという音とともにドアが開き、本日第一号のお客様がやって来た。
「雅ちゃん、おはよう。」
「川上さん、おはようございます。いつものでよろしいですか?」
「あぁ、頼むよ。」
川上さんは毎日朝ごはんを食べに来る五十代の男の人で、決まったカウンター席に座ると持参した新聞紙を読みながら、私が作る朝食を待っている。
コポコポコポ…とドリップ珈琲が音を立て、カフェ内が珈琲の良い香りに包まれ始める。トースターで焼き立ての食パンを焼き、途中で自家製バターを塗って更に焼く。その間にベーコンエッグを準備する。黄身を固めに焼くのが川上さん用の焼き方だ。そして、サラダを盛ったプレートにベーコンエッグと焼けたトーストを盛り付け始める。川上さんはそろそろだと察知して新聞紙を畳み、私の様子をじっと見つめている。
「お待たせしましたぁ。」
私がカウンター越しにプレートを差し出すと、川上さんは嬉しそうに受け取り、カウンターに置いてあるカゴからフォークを一本取りサラダを頬張る。
「珈琲です。」
淹れたての特製珈琲も川上さんには欠かせない。
「ありがとう。雅ちゃんの淹れた珈琲じゃないと、僕の1日が始まらなくてね。」
「フフフ、そう言って頂けるとやり甲斐があります。今日も1日ですか?」
「そうだよ、働かざる者食うべからずってね。生きていく上では働かなくちゃね。雅ちゃんみたいに楽しそうに働いているのを見ると、自分も頑張らなくちゃって思うよ。家族の為にもね。」
「お子さん今おいくつでしたっけ?」
「来月で高校生。まだこれから色々掛かるしね。まだまだ死ねないよ。」
「立派なお父さんで、お子さんも自慢だと思いますよ。」
川上さんはニコッと微笑むと綺麗に食べ切って空になったプレートをカウンターに置いた。
「ご馳走様。今日も美味しかったよ。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
カランカランという音とともに川上さんはカフェを後にした。
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