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芽衣ちゃんを家まで無事に送り届けてカフェに戻って山を登っている途中、困った顔で立ち尽くしているおばあちゃんの姿が見えた。
「あれ、タキさん?」
「おや、雅ちゃん。お店は今日はお休みなのかい?」
「やってますよ。迷子の女の子を送ってきたところです。」
「おやそうかい。それは大変だったね。」
「タキさんはどうしたんですか。困った顔されて。」
「雅ちゃんにお願いして申し訳ないんだけど、お手伝いお願いできるかい?」
タキさんは申し訳なさそうな表情をしていたので、私は微笑んで「何でもしますよ。」と答えた。
タキさんは嬉しそうに笑った。
タキさんは私に付いてきて欲しいと言って、ゆっくり歩き出した。登山道から外れた茂みの中を躊躇なく歩くタキさんの後を付いていくと、少し開けた場所に着いた。
「私1人じゃどうにも動かせなくてね。一緒にお願いできるかい。」
タキさんが指差したのは、山の中を流れる小川を防ぐように置いてある大きな石だった。その石のせいで、綺麗な直線で流れていた小川は水溜りのようになってしまっていた。きっと一昨日の雨の時に落石してきたものだと思った。
私はタキさんと力を合わせて、大きな石を少し持ち上げるとそのまま川から少し離れた場所に置いた。石が堰き止めていた水は再び直線に流れを作り出し、山を下り始めた。
「ありがとう、雅ちゃん。お陰で私はまた生きていけるよ。」
「タキさんの流してくれる音は、この山を登る人たちに癒しを与えてくれますから居ないと困りますよ。私も時々近くまで行って元気を貰ってますよ。」
私は耳を澄ませた。高低差のある崖から水が落果、下に溜まった水と奏でる音はやはり私の心を潤してくれる。
「タキさん、もうじき3時になりますから、うちでお茶でもいかがですか?」
「それは嬉しいね。久しぶりに雅ちゃんが作るパンケーキも食べたいねぇ。」
「ご用意しますね。」
私はタキさんとカフェに戻って、早速タキさんのリクエストのパンケーキを作り始めた。私のパンケーキのこだわりは、薄めに焼いたパンケーキを幾重にも重ねることだ。そして、自家製バターを乗せ、溶け始めたところに、採れたての蜂蜜をたっぷり掛けるのが『頂』流パンケーキの頬落ちポイントだ。
「お待たせしました。」
「おや、相変わらず美味しそうだこと。」
タキさんはフォークとナイフを上手に使い、パンケーキを一口頬張った。
「う~ん、これだねぇ。今日のパンケーキもとっても美味しいわ。」
タキさんはペロリと平らげると、口の周りに付いた蜂蜜を指で掬いペロッと舐めた。
「綺麗に食べて頂いて嬉しいです。」
「ご馳走さま。ここのパンケーキは病みつきになっちゃうわね。」
タキさんは幸せそうな笑顔のままカフェを後にした。
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