2.非日常とは、どうやらその辺に転がっているらしい。

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2.非日常とは、どうやらその辺に転がっているらしい。

 なぜ、こんな事になってしまったのか。  事の起こりは数日前に遡る。  それは、グレイがいつも通り殺しの依頼を遂行すべくターゲットの元を訪れた時の事だった。 「……開いている」  蒸せ返るような血の臭いに思わず眉を顰め、勢いよく戸を開ければ眼下には地獄絵図が広がっていた。 「これ、は?」  部屋中に飛び散った血とおそらくヒトだったモノの残骸。  僅かだが妖しく紫色の光りが残った大きな魔法陣。  その中心には大型の動物でも入れるかのような檻。  が、鉄格子はまるで飴細工のようにぐにゃりと曲がってすでに檻は役目を果たせなくなっていた。  そして、その傍らに佇んでいたのは一人の妙齢な女。  淡いピンク色をした腰まで伸びたふわふわと揺れる髪。  この惨状に動じることなく恍惚と輝く大きな空色の瞳。 「……パトリシア・アイズ」  グレイは依頼人から聞いていた彼女の名前を口にして、ただならぬ雰囲気を纏った彼女に銃口を向ける。 「ああ、もしかしてこの子(・・・)のお迎えでしたの?」  口角をあげ、胸に手を置いた彼女は、 「ですが、少々遅かったようですわ。神父さま」  と鈴が転がるような声でそう言った。  グレイは眉を顰める。  初対面である彼女が、的確に自分の表の職業を当てたのはなぜか?  依頼人である彼女の父親でさえ知らないというのに。 「ふふ、まぁ怖いお顔」  全く怖がる様子のないパトリシアは妖艶に微笑む。 「それだけ神気を纏っていれば、余程の阿呆でなければ気付きますわ」 「……お前、悪魔か」  ありえない、と思いながらもグレイはその可能性を口にする。  魔のモノと呼ばれるこちら側の世界ではない住人が出入りできていたのは一昔前の話。  明確な境界線が引かれている現代においてはお互いおいそれと向こう側の世界に干渉できないはずだ。 「その呼ばれ方はあまり好きではありませんわ」  やや口をへの字に曲げた彼女は、 「ふふ、そうだわ。パトリシア。私、今日からそう名乗る事にいたします」  パチンと手を打つとさも名案とばかりにそう宣言した。
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