一章 雪の中の再会

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事の発端は、二十六歳の誕生日から三か月後のこと。 軽井沢の別荘に向かっていた両親の車が事故に遭い、ふたりは亡くなった。 家業を継ぐしかなかった七歳上の兄は日夜働きづめになり、私たち兄妹は悲しみに暮れる間もなくすれ違いの生活を送っていた。 ところが、会社の業績は瞬く間に傾き、専属デザイナーが他社に引き抜かれた。 さらに、兄がなんとかしようと手を出した詐欺まがいの投資事業で失敗し、いかるが宝石は倒産した。 東京に構えていた数軒の店舗も本社も、他人の手に渡った。 それどころか、家も別荘も兄の車も、祖父母が遺してくれた土地も抵当に入れられ、旺志さんからプレゼントしてもらった私のジュエリー類すらも持っていかれてしまい、残ったのは多額の借金だけ。 その上、兄は会社の倒産と同時に失踪し、斑鳩から籍が抜かれていた。 たった数日にして、私は小さな宝石会社の令嬢から借金塗れの人間になり、頼れる家族すらも失ったのだ。 顧問弁護士は最小限のアドバイスをして去り、私の居場所はなくなった。 そのとき仕事でロスにいた旺志さんは、いかるが宝石の倒産を知り、すぐに連絡をくれた。 そして、『三日後まで帰れないが、うちにいるんだ』と言い、マンションのコンシェルジュに話を通してくれ、私はただ彼の帰りを待った。 けれど、旺志さんが帰国する前日。 彼の両親に呼び出され、三千万円の手切れ金で『旺志と別れてほしい』と頭を下げられて……。すぐに返事ができずにいると、ふたりから土下座までされた。
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