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「ユキちゃん、今日はもう上がりなさい。彼と話をしないといけないでしょう?」
「いいえ、話すことなんてありません」
言うが早く強引に彼の手を振り払い、店内に逃げ込む。
「待て、真白!」
けれど、店に入ったところで追いかけてきた旺志さんに再び捕まった。
「放――」
「この店のママはあなたですね? 今すぐ彼女を辞めさせてくれ。その代わり、彼女がこの先一年で稼ぐはずだった金額を一括で支払う」
しかも、彼は私たちを追うように戻ってきた蓉子ママに向き合うと、ママの返事も聞かずにそんなことを言い放った。
「勝手に決めないで! 私は辞めないし、あなたと話すこともありません」
「なら、この店を買い取ろう」
頑として突っ撥ねようとしたのに、旺志さんの言葉にギョッとした。
彼ならやり兼ねない……というよりも、きっと今すぐにそれができてしまう。
神室の力があれば、北海道の片隅にある店なんて一捻りだろう。
芙蓉は、蓉子ママの夢が詰まった店だと聞かせてもらったことがある。その大切な場所を、私のせいで奪われるわけにはいかない。
「勝手に決めないで、と言ったな。だが、あの朝、勝手に俺の前から姿を消したのは真白の方だ」
冷たい瞳を向けられた私には、選択肢なんてなかった。
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