プロローグ

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旺志さんは、公家の血を引く神室の本家に長男として生まれた。 由緒ある神室は、ただの公家ではなく、その中でも最高幹部と謳われる公卿だったという歴史がある。 江戸時代から商業で成功し、戦後は鉄鋼業で財を成した神室は旧財閥でもあった。 古くから一族で事業を拡大し続けた神室は、現在は鉄鋼業もそのままに、金融・建築・医療法人・ホテル事業でも名を馳せている。 その『神室グループ』の国内事業部で取締役社長に就いているのが、〝神室の皇帝〟と呼ばれている彼なのだ。 そんな旺志さんと私が恋人だなんて、付き合って一年が経った今でも信じられないときがある。 出会いは約一年半前。 父が経営する『いかるが宝石』の娘である私は、両親と兄とともに懇意にしている会社の創業記念パーティーに招待された。 そこで、旺志さんと出会ったのだ。 招待客の中でもひときわ目立っていた彼に、一瞬で目を奪われた。 意志の強そうな一重瞼の目に、精巧な美術品よりも美しく通った鼻梁。右目尻にあるほくろが妙に艶っぽく、凛々しい眉ですら色っぽかった。 真っ直ぐな髪は、何物にも染まらないと語るような漆黒。ただのビジネスショートなのに、まるで絵画のごとく美しかった。 スーツの上からでも程よく鍛えられていることがわかる、逞しい体躯。すらりと伸びた長い手足までもが、旺志さんの存在を強調しているかのように思えた。
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