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第0章 桃の花
西暦1609年03月03日。
米沢藩初代藩主となった上杉景勝の母親である綾は住み慣れた越後ではなく米沢で09年目の春を迎えていました。
綾「桃の節句を迎えると…桃の事を思い出して胸が軋んでしまうのよ…」
綾は越後国がある方角を眺めながら…
悲しげに顔を歪めていました。
桃の節句は、
古来から女の子が健やかに成長するように…との願いを込めて行われる祭りで現在ではひな祭りと呼ばれます。
上杉景勝「母上、私が時勢を見誤ったせいで越後国を追われる事になり大変申し訳ありませぬ…」
綾と長尾政景の息子である上杉景勝は
今から09年前に起きた関ヶ原の戦いで西軍に属した事により長きに渡り住んでいた越後国・春日山城から退去し、米沢への国替えを命じられました。
綾「構いませぬ…。ただ…あの娘は…桃は…寂しがるかも知れませぬ…」
桃とは上杉謙信が養子として引き取った上杉景虎の正室で上杉景勝とは双子として同じ日、同じ刻限に産まれた妹でございました。
上杉景勝「桃の事に関しても、私が景虎に家督を譲っておればこのような事にはなりませんでした。」
景勝も桃の死に関しては、
今でも自分の事を責めておりました。
綾「それを言い出したなら…
その責任は今は亡き謙信にあります。謙信が…死を前に跡継ぎを選択しておれば…」
御舘の乱では…上杉景勝も勝つ為に
色んな作戦を立て心を後回しにしておりましたが…
いざ家督を継いでみたら…
上杉家は2つに分かれてまずは、
家を立て直す事と…
直江兼続「三成…。幸村。」
友を喪い途方に暮れる忠臣・
兼続の心を救う事が優先事項でした。
菊姫の兄である武田勝頼を味方にしなければ勝つ事の出来なかった戦ではありましたがそれにより菊姫をどれ程、悲しませたか分かりません。
菊姫「問題ありません。」
いつもと変わらぬ笑顔を浮かべながら
上杉景勝の事を支えていた菊姫。
そんな菊姫が死んだのは上杉景勝の嫡男である千代桜が誕生する1週間前の事でした。
上杉景勝は最愛の妻である菊姫の生まれ変わりと信じているまだ幼い千代桜をその腕に抱いておりました…。
千代桜「私も上杉の血を受け継ぐ者故精進する事だけを考えております。」
まだ5歳である千代桜ではありますが
物心ついた頃から英才教育を常に施されており…その口振りたるや元服した人間のようで…
上杉景勝「義父上が御存命だったならば千代桜の才をお喜びになっていたかも知れないな…」
上杉景勝は息子の成長を目を細めながら喜びを表しておりました。
すると…
綾は今は亡き弟の頑なな態度を何故か思い出したようで…
上杉謙信『俺は…
愛とか恋とかは…信じませぬ…。』
綾「謙信は愛とか恋とかは信じないと頑なに拒んでいたから…で、もし女児だったら名前は何にしたの?もしかしてあや?」
悪戯な笑みを浮かべながら景勝に問うた綾ではありましたがその答えはまさかの…
上杉景勝「確かに女児ならば、
彧にするつもりでした…。」
彧だったらしく、
綾の適当な問いが見事に当たったのは良かったのですが…
綾「ややこしい名付けをするのは…
辞めなさい!綾と彧など…どちらがどちらなのか分からないではないの?」
祖母と孫が同じ読み方なのは、
複雑な心境でございました。
まさに…
どちらがどちらなのか把握するには、
千代「書くしか方法がありません。」
千代の言う通りで書くしか方法がなく
あやとあや問題は根深いものでした。
すると…
綾は何故だか分かりませんが、
突然、話を変えて昔話をする事にしたのでございます。
綾「では…千代と…
景勝に大切な話を致しましょう。」
綾は景勝と千代に
ある話をする事にしました。
それは…
綾「越後の龍と甲斐の虎が激突した川中島合戦の話をしますが長くなるので第4次のお話をしますね。」
第4次川中島合戦と言えば…
上杉景勝「義父上様が甲斐の武田信玄と直接戦いをしたあれですか?」
上杉景勝は期待をしているようですが
それまでには…色々な話がある事を…まだ彼は知りませんでした。
千代「私がその話を
伺っても宜しいのでしょうか?」
千代は西暦1604年に病のため、
命を落とした武田信玄の娘である菊姫に仕えていた侍女であり今では上杉景勝の側室でございます。
綾「今は貴女が景勝の妻なのだから…千代桜が成長した時、話してあげなさい。越後の龍と甲斐の虎が直接戦いをしたなんて貴重なものよ…」
綾の弟であり越後の龍と褒め称えられた上杉謙信は…実のところ3度の飯より酒が大好きな…現代で言うところのアルコール中毒でございました。
上杉謙信「酒で俗世の穢れを消さなければ…」
これが由来でアルコール消毒と言う言葉が生まれたのかは定かではないのですがアルコール中毒とアルコール消毒は違うものなので誤解しないで下さい
綾「アルコールは、
過度に摂取してはなりませんよ。」
何事もし過ぎてはダメです。
アルコールと嫉妬は程々に…
何事もスパイスくらいで丁度良い。
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