第0章 桃の花

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綾「結局、殿と来たら謝りもせず… 私を置いて先に逝くのだから…」 上杉謙信が武田信玄との戦を楽しみにしていると言うのに綾の心中は…長尾政景に対する怒りで震えるどころではなく…荒れ果てた海のような状況でございました。 綾は…嫌いになるか好きになるか… のどちらかしか選択肢がないので… 長尾政景からは… うんざりした顔をされながら… 長尾政景「嫉妬が深すぎて 息苦しい女と結婚したのが 運の尽きか…。」と言われるのが… 残念ではありますが綾の日常で… 弟の謙信からすると… 謙信「実に情けない…」としか 言葉を口にする事が出来ないので… ちなみに… 綾「私が殿と喧嘩をした理由は…」 上杉謙信「知りたくはないが、 仕方ないので一応聞いておきます。」 綾と夫が喧嘩をした理由は… 綾「私というものがおりながら… 殿は側室を迎えたのですよ?」 現代で言うところの心変わりと言った類いのものでございます。 上杉謙信「人の心なぞ不変ではなく、移ろいやすいものですよ?重苦しい程の愛を持っているのは…姉上くらいのものでは…?」   綾「謙信?そんなに牡蠣が食べたいのかしら?それなりに火を通してあげるわ…貴方は可愛い弟ですから…」 綾はどこから手に入れたのか… 何やら妖しげな気配の感じる牡蠣を 取り出すと妖艶な笑みを浮かべ… 上杉謙信「姉上、 俺を消すのだけはお止め下され…。 桃と影松が悲しみます。」 桃とは… 後に上杉謙信が気に入り北条家から養子に貰った北条三郎改め上杉景虎の継室に迎えられた桃御寮人の事ではあるがまだ幼く影松は後の上杉景勝の事ではあるがこちらもまだ幼い。 上杉謙信「側室を迎えるのは、 仕方のない事ではありませんか? 桃と影松は俺が養子に迎えます。」 綾「側室なぞ、 私は絶対に許しませんよ!」 幽霊よりも人間の方が恐いのではないのか…と最近、思い始めた謙信でございました。 上杉謙信「まだ…幽霊の方が可愛いと感じるのは…」 上杉謙信が呟くと綾が血相変えた青白い顔をしながら… 綾「謙信!私は幽霊が恐いのです。壬申の乱で命を落とした大友皇子が1回私の枕元に立ったのですよ?」 それを聞いた時には、 さすがの謙信も驚きました。 上杉謙信「大友皇子と言うのは… 誰でも良いのでしょうか?まさかの姉上の夢枕に立つなんて…」 綾にも…どうやら恐いものが… あるようで… 綾「無念の死を遂げた幽霊は、 何よりも恐いのですよ?」 壬申の乱で敗死した大友皇子とは… 今は昔、飛鳥時代の事になります。 上杉謙信「従姉同士で結婚した姫が父親に結局夫の命を奪われたとか…」 綾「愛を引き裂くなど…許し難い暴挙ではないのかしら?」 … … … 上杉謙信は今は亡き義兄が黄泉路を逆行して来るのではないかと気が気ではありませんでした。   ちなみに長尾政景は義兄ではあるものの綾御前より2歳下でございました。 上杉謙信は綾御前より6歳下の弟で、 物心ついた頃には恐怖の対象である姉が存在しておりました。 綾「幽霊扱いは…止めなさい!」 すっかり幽霊並の扱いを受ける事になった綾ではありましたが… 綾「殿が悪いのですよ?私というものがありながら16歳になったばかりの側室を迎えようとしたのです?」 ちなみに長尾政景は38歳で、 側室に迎えるはずだったのは美野(よしの)という名前の12歳下の美女で、 お茶の娘だったらしく気立ても良く料理も旨いと噂の女性でした。 上杉謙信「成仏して下され、義兄上。姉上が深く嫉妬してしまい申し訳ありませぬ…」 ある意味、政景の死こそ無念の死ではないかと思っている上杉謙信ではありましたが…義兄の魂がせめて安らかである事を願うより他に 綾「殿が悪いのですよ?私は悪くありませぬ…あの男が全て悪いのです。」 綾の恨み節は止まる事を知らず… 上杉謙信の憂鬱は深まるばかり… そんな上杉謙信の憂さを晴らすのが…
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