ピースが帰る時

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 僕はピース。パパとママがつけてくれた。  僕は気がついたら小さな部屋に閉じ込められていて、たくさんの人が僕を見て「この犬可愛い! でも値段がなあ」とか「ポメラニアンは毛のお手入れ大変だから。他の子にしようね」とかいろいろなことを言って僕から離れていく。  いろいろな人が僕を見ていくから、僕はいつも透明な壁にへばりついていた。狭い部屋は好きじゃない、ヒマだし。  そうしたらパパとママが僕をこの部屋から出してくれたんだ。 「少し大きくなってしまったのでお安くしております。それにかなり人馴れしていますよ」 「八万も値引きしてる! ねえこの子にしようよ!」  やっと狭い部屋から出られた僕は嬉しくて嬉しくて。初めて入るおうち、初めてのおもちゃ、初めての散歩。何もかも全部楽しかった、毎日パパとママを追いかけ回して思いっきり甘えた。  いろんなおもちゃを買ってくれていろんなご飯をくれた。モコモコの柔らかい寝床でグッスリ眠れる。僕はパパとママが大好きだ。  だから僕は走る、家に帰らなきゃ。パパとママが待ってる。  僕にはお洋服必要ないんだけど、ママは僕がお洋服を着てるのが好きでいろんなお洋服を買ってくる。そしてパシャって音を立てて四角いものをずっと触ってみてる。 「やっぱりウチの子が世界一可愛い~」  音を立ててからあれを見てる時のママはご機嫌だ。でも僕にかまってくれないから、あの四角いやつは僕のライバルだ。ママを独り占めにするから。  ずっと鳴いて足元をぴょんぴょんする。気づいてママ、僕と遊んで。  僕は走る、早く家に帰らないと。  僕が迷子になってしまってもうどれぐらい経つだろう。早く帰らなきゃ。絶対パパとママが心配してる。  お散歩の道しか知らなかったけど、世界はこんなに広いんだな。車もぶんぶん、人間は無表情で四角い箱ばっかり見てる。パー! と車から凄い音が鳴るとびっくりしちゃう、耳がいいから。  他の大きい犬はちょっと怖い。なるべく草とかに隠れてそっとやり過ごす。このあたりは僕の縄張りじゃないからね、勝手におしっこしたら怒られちゃう。まあ僕はトイレシートでしかおしっこしないイイ子なんだけど。  パパとママの匂いを探してうろうろ。待ってて、絶対帰るから!
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