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「そうして犬はガス室で死んでしまいました。終わりです」
入学して初めての授業参観。静まりかえる教室は誰も拍手をしない。担任の教師は引きつった顔をしている。
「な、なかなかすごいお話でしたね。大きくなったら小説家かなあ?」
あははと乾いた笑いが響いた。黒板に書かれた文字は「おとうさん、おかあさんへ」
息子の真後ろを陣取っていた両親は顔色を真っ青にしている。何故、息子がそのことを知っている。もう十年も前のことだ、このことを知っているのは自分達だけのはず。
若い担任は拍手をする。早く次の子にいきたいのだろう。いまいち最後の意味がよくわからなかったらしいクラスメイトは、戸惑った様子で数人だけ拍手をする。
「つ、次。新山さん」
「あ、はい」
隣の席の女の子がチラチラと彼を見る。自分の番が終わったと言うのにまだ突っ立っているからだ。
「永岡君、席に座ってください」
「はーい」
元気に返事をするとくるりと両親を振り返った。口角を上げて舌を出して笑うその顔は、十年前によく見たあの笑顔。
その微笑ましい光景に、ようやく保護者らの微妙な空気が和らぐ。少年の両親を除いて。
青ざめる両親に、息子はピースサインをした。
七歳とは思えない肉食獣のような鋭い目つきで、声には出さず口パクをする。
た だ い ま。
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