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4
それから三日経って、陸から電話があった。
『二人だけで話がしたい』
先日は全員が集まったから、大方の話は済んでいる。自分の身の振り方も迷っていたので、正直もう少し放っておいてほしかった。何よりも俺のことで、俺以上に心を痛めてる親友を見るのはキツかった。
陸なりに
ケジメつけるつもりなのか
原因は俺にある。最後に出来ることはしてやらなきゃな。俺は自分のマンションに来るように伝えた。
コーヒーを淹れてるとチャイムが鳴った。ドアの外に陸が所在なげに立っていた。
「突っ立ってねえで入れよ」
無言でブーツを脱いで、陸は勝手知ったるリビングへ向かうと、ソファにどっかと腰を下ろした。頬が少しこけて無精髭が伸びている。胸がちくりと痛んだ。
「ひでえ顔だな」
カップをテーブルに置いて俺も向かい側に座った。
「うるせーよ。……喉は」
「相変わらずだ。良くも悪くもない」
「元々掠れてるしな」
「下町のジョンってか」
「自惚れんな。お前は名無しだ」
陸がようやく口元を緩めた。俺はほっとしてコーヒーに口をつけた。
「八年か」
出会ってから、陸とは誰よりも長く同じ時間を過ごしてきた。もちろん四人で年中顔を突き合わせていたけど、練習が終わると陸と俺は大抵どちらかの家に行き、夜遅くまで他愛もない話に花を咲かせた。好きなアーティストの音源を共有し、気に入ったフレーズを真似して即興で演奏したりもした。
『あんたたち、よく飽きないわね』
母親に呆れられてもどれだけ語り合っても、二人の話は尽きることはなかった。さすがにバイトを始めてからは夜更かしの頻度は減ったけど、これからもその時間はなくならないと思っていた。
「長かったような、あっという間のような。何か変な気分だ」
「……やっぱり無理なのか」
陸が絞り出すように尋ねた。
「プロとしては難しいだろうって。爆弾抱えた俺と心中することねえだろ」
陸はまた黙った。こんなに二人の間に沈黙が訪れることなんてなかった。妙な間にどちらも落ち着かない。
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