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俺の一言でリハどころではなくなった。ナルが遠藤に電話をかけると、彼はすぐに店まで駆けつけた。
「説明してくれるかな」
眼鏡の奥の目元は険しかった。俺の話を微動だにせず聞き終えた遠藤は、ため息をついたあとに言った。
「悪いけど、デビューの話は一旦白紙に戻すことにしよう」
断罪のような響きに、俺は目を閉じた。
万にひとつ俺を待ってくれるかも。そんな淡い期待も砕けた。
俺のせいだ
俺のせいで 陸は
誰もが身動ぎせず、言葉を持たなかった。
「公式発表はまだでも水面下で動いてるものもある。まずは状況を確認して、最終的には上からの判断を仰ぐことになるけど」
夢にまで見たデビューが撤回され、非情とも取れる淡々とした説明が続く。思考停止した俺たちにそれは、感傷に浸っている場合じゃないと伝えていた。
「瑛二くん」
呼ばれてぎくりとした。嫌味のひとつでも言われるかと身構えた俺に、遠藤は静かに告げた。
「君が一番辛いのに、話してくれてありがとう」
「いや」
「だけど、問題が山積みだ。まずはこっちを優先してもらいたい」
「……はい」
「既に大勢の人間が関わって大金が動いている。被害は最小限に食い止めなくちゃいけない。君たちの将来のためにもね」
俺だけの問題じゃないのを今さらのように理解した。もっと早く言うべきだった。
「すんません」
俺は遠藤に頭を下げた。彼は黙って俺の肩をぽんと叩くと、かかってきた電話に出るために部屋を後にした。
陸は静かに座っていた。放心したままこぼれる涙を拭いもしない。近づいて肩を抱きしめてやると、耳元でこらえきれない嗚咽が漏れた。
「瑛二、何でだよ……何でお前が」
胸を掴まれたみたいに苦しくなり、俺も視界が滲んだ。デビューがふいになったからじゃない。もう二人揃ってこのままステージには立てないかもしれない。それが一番の不安だった。
そして何よりも、陸は俺のために泣いていた。
「陸。ごめんな」
陸の答えは声にならなかった。
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