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ギリギリで間に合ったものと間に合わなかったもの、それぞれあったけど、遠藤が動いてくれて事なきを得たようだった。金のことは怖くて聞けなかったが、弁済の話は出てこなかった。 「あとは君たちだね」 一区切りした時には、あれから半月経っていた。 「僕としては、瑛二くんの声と作曲の才能も君たちの大きな魅力だったから、かなり惜しいと思ってる」 俺のギターのことに触れないのが、正直な遠藤らしかった。 「それでも演奏(パフォーマンス)は素晴らしいと思うし、新しいヴォーカルを探してみたらどうかな。違う魅力が生まれるかもしれない」 「瑛二以外の奴が歌うなんて、想像出来ないです」 ぼそりと陸が言った。 「いいんじゃない、それも。だけど、自分たちの可能性は全部試してみたら」 俺が 皆の未来を潰してしまった そう思ったら思わず口にしていた。 「曲はお前らにやるよ。納得いく奴がいたら歌って貰えばいい」 「瑛二……」 「俺が持ってても意味ねえし」 「新生メンバーで、もう一度デビュー狙えってことっすか」 鷹之がおずおずと尋ねると遠藤は笑った。 「保証はできないけどね。あくまで可能性の話」 あからさまに顔には出さなかったけど、鷹之とナルの瞳が僅かに輝いた気がした。でも、それでいいと思った。こいつらが羽ばたいてくれたら、俺だって何も背負わなくて済むのだから。 陸は何も言わずうなだれていた。 気兼ねして先に帰った俺を、遠藤が追いかけてきた。 「これ、読んどいて」 大きな封筒にずっしり書類が入っていた。 「何ですか」 「瑛二くんさ、楽曲提供してみない?」 思ってもみない誘いだった。俺も同じだ。あいつらと一緒じゃなきゃ、音楽やってる気になれない。そんな道があるなんて考えもしなかった。 「賠償金減額のためにもご協力お願いします」 げ やっぱりあんのかよ 「幾らですか」 「嘘だよ」 遠藤は快活に笑った。 「僕も完全に君たちを諦めたわけじゃないんだ。這い上がってきてくれたら僕の顔も立つ。単なる温情で救えるほどこの世界は甘くないけどね」 「それは分かります」 夢を叶えることなく、消えていった先輩たちの背中が浮かんだ。俺に、陸に未来を託して。 「ちょっとポップ寄りにしてくれたら、結構需要あると思うよ」 さらっと要求を口にして、遠藤は颯爽と駅に向かっていった。ものすごく悔しかったが、彼が俺の目指すプロの世界で力を持っているのは明らかだった。 くそ 遠藤さまさまだな
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