36人が本棚に入れています
本棚に追加
3
ギリギリで間に合ったものと間に合わなかったもの、それぞれあったけど、遠藤が動いてくれて事なきを得たようだった。金のことは怖くて聞けなかったが、弁済の話は出てこなかった。
「あとは君たちだね」
一区切りした時には、あれから半月経っていた。
「僕としては、瑛二くんの声と作曲の才能も君たちの大きな魅力だったから、かなり惜しいと思ってる」
俺のギターのことに触れないのが、正直な遠藤らしかった。
「それでも演奏は素晴らしいと思うし、新しいヴォーカルを探してみたらどうかな。違う魅力が生まれるかもしれない」
「瑛二以外の奴が歌うなんて、想像出来ないです」
ぼそりと陸が言った。
「いいんじゃない、それも。だけど、自分たちの可能性は全部試してみたら」
俺が 皆の未来を潰してしまった
そう思ったら思わず口にしていた。
「曲はお前らにやるよ。納得いく奴がいたら歌って貰えばいい」
「瑛二……」
「俺が持ってても意味ねえし」
「新生メンバーで、もう一度デビュー狙えってことっすか」
鷹之がおずおずと尋ねると遠藤は笑った。
「保証はできないけどね。あくまで可能性の話」
あからさまに顔には出さなかったけど、鷹之とナルの瞳が僅かに輝いた気がした。でも、それでいいと思った。こいつらが羽ばたいてくれたら、俺だって何も背負わなくて済むのだから。
陸は何も言わずうなだれていた。
気兼ねして先に帰った俺を、遠藤が追いかけてきた。
「これ、読んどいて」
大きな封筒にずっしり書類が入っていた。
「何ですか」
「瑛二くんさ、楽曲提供してみない?」
思ってもみない誘いだった。俺も同じだ。あいつらと一緒じゃなきゃ、音楽やってる気になれない。そんな道があるなんて考えもしなかった。
「賠償金減額のためにもご協力お願いします」
げ やっぱりあんのかよ
「幾らですか」
「嘘だよ」
遠藤は快活に笑った。
「僕も完全に君たちを諦めたわけじゃないんだ。這い上がってきてくれたら僕の顔も立つ。単なる温情で救えるほどこの世界は甘くないけどね」
「それは分かります」
夢を叶えることなく、消えていった先輩たちの背中が浮かんだ。俺に、陸に未来を託して。
「ちょっとポップ寄りにしてくれたら、結構需要あると思うよ」
さらっと要求を口にして、遠藤は颯爽と駅に向かっていった。ものすごく悔しかったが、彼が俺の目指すプロの世界で力を持っているのは明らかだった。
くそ 遠藤さまさまだな
最初のコメントを投稿しよう!