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一人が弾いたフレーズにもう片方がリプライする。そこからまた新しい音が広がっていく。それも俺たちの会話だった。 「声を選ぼうかっても考えた」 「手術しないでか」 「そう。どれだけ()つかわからないけどな」 自分らしく歌えないなら短く散るのもいいかと思ったが、両親に話すと泣いて止められた。 「頼むから生きててくれって。それだけでいいからって。親父まで泣くから俺もさすがに折れたわ」 陸は肩で息をついた。 「不安なんだ。いつも隣にいたお前がいなくなるなんて」 「わかるよ」 俺だって埋められない喪失感がある。陸という片翼をもがれたら自由には飛べない。たとえ傷ついても、二人が一緒なら何も怖くはなかった。 お前と一緒に飛びたかった だけど、遠藤が言っていた。俺たちのために大勢が関わってると。一時凌ぎで先が見えないようじゃ無責任だ。天才的なスターや大御所の我儘とは訳が違う。 「遠藤もまだ諦めてないって。這い上がって来いってさ」 「でも」 「俺も曲作ってみないかって言われた」 「やるのか」 「試されてるんだ。受けて立つよ。だから、お前もやってみればいい。俺が言うことじゃないけど」 「……手術、いつ」 この半月のライブは中止になったが、来月の分はまだキャンセルしていない。俺が声をかけていいものか迷ったのもあるが、憔悴した陸の回復を待つ意味もあって、リハは休んでいた。 「皆さえよければ、八月にラストライブがやりたい。それが終わったら」 「声は平気なのか」 「俺が俺であるうちに歌いたいんだ」 「そうか」 陸の表情が和らいだ。 それは自分のためでも仲間のためでもある。今の俺の姿を、陸の目に焼き付けて欲しかった。 八月をもってバンドは解散することを決めた。仲間内に衝撃が走り、こぞって理由を尋ねてきた。俺が歌えないことを知るとざわめきが広がった。 「皆は新しいヴォーカルを探して、デビューを目指す予定だ」 「瑛二くんは?」 「俺は……、歌うよ。自分のペースで」 行く先に光が射して、俺も陸も少しだけ笑えるようになっていた。
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