3人が本棚に入れています
本棚に追加
そしてバスに揺られること数時間。
あまり良く眠れなくて体中も痛い。
それでも到着した青森!そして太宰治の学生時代を過ごした街、弘前市!
ああ、そう!来てみたかった!
本当は生家のある五所川原市の方に行きたかったんだけど、ちょうどいい時間のバスが無かったのよね。でも弘前もかなり聖地巡礼の場所があるのよね。とりあえず旧藤田庭園には行くでしょ。あとは確か文学碑もあったはず。
そういえば……。
私は隣で大きな荷物を抱える佐倉さんにたずねた。
「佐倉さんは先にホテルで荷物下ろしますか?その後のご予定は……」
あわよくば、佐倉さんも予定が無いみたいだし、一緒に回るのも楽しいかなって思い、私はウキウキとたずねた。
すると、佐倉さんは少し遠くを見つめて答えた。
「山に」
「うん?」
「山に行こうかなって思ってます」
佐倉さんはギュッと恋人から盗んできたというリュックを抱え込んで言った。
「バスの中で調べたら、岩木山って山があるみたくて。車とリフトで9合目まではいけるみたいで、そこからなら私でも頂上いけるかなって思って。ほら、装備は完璧だし」
自虐的に微笑む佐倉さん。
「……『したたるほど真蒼で、富士山よりもつと女らしく、十二単衣の裾を、銀杏いてふの葉をさかさに立てたやうにぱらりとひらいて左右の均斉も正しく、静かに青空に浮んでゐる。決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透きとほるくらゐに嬋娟たる美女ではある』」
「え?ナニ?」
「太宰治の『津軽』で、岩木山についてそう表現してる。美人の山だって」
私は佐倉さんの固く握られた手を取った。
「ねえ、私も行っていいかな。私も装備買うから」
「え、でも結構な値段……」
「そうよね、津軽富士を見なきゃ話にならないわよね!どうせその靴じゃ登れないから佐倉さんも靴とか買いに行くでしょ?その時に私も行く。大丈夫、ボーナスとか全然使ってなかったから今回散財しちゃうんだ!」
ウキウキと言う私に、佐倉さんは戸惑った顔をしている。あれ、やっぱり迷惑だっただろうか。
「一緒に、行ってくれるなら嬉しい。山登ったことなんか無いし、不安だったから」
モジモジと言う佐倉さんに、私はキュンとした。
「よし、じゃあスポーツ用品店開くまでホテルで計画立てよう!あ、朝ごはんどうする!?さっき調べたんだけど、朝ラーメンとかやってるみたいだから食べちゃおうよ!」
「朝からラーメン!?ヤバい!面白そう!」
私達はキャッキャと話しながら、うら若き女子二人、映えない朝ご飯を食べに向かう。
朝ラーメンは、思ったよりもさっぱりしていて美味しかった。
最初のコメントを投稿しよう!