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興味なんて無かった。自分が誰かのお世話をするなんて…。
そもそも、介護という言葉をよく理解していなかった。
きっかけは、同級生の女性に言われた…半ば強引な頼まれごとだった。
「お願い!!悠真。ちょっとで良いから手伝って。」
「介護…って。何するんだよ?」
「お年寄りの話し相手とか、散歩したりとか。」
それぐらいなら、出来る。軽く承諾した。
「大嘘つき!!」
実際は、オムツ交換や食事介助。認知症のある高齢者から何度も同じ事を言われては、それに答える。
入浴介助も有れば、失禁した方のお世話や排泄処理。
同級生の女性は、申し訳無さそうにしていたが、一生…根に持ってやると…心に刻んだ。
その肉体労働に合わない報酬。
「あれだけやって、コレだけ?」
給与明細を見ては、肩を落とした。
気持ちが変わったのは、ある高齢者の一言だった。
施設の部屋を巡回している時に、目が合った男性…もちろん高齢者。
「どうしました?」悠真が声を掛けると
「手の爪を…切りたいんだが…。」そう言うと、悠真がその男性の隣に座り、手の爪を見た。
「あぁ、伸びてますね。ちょっと爪切り持って来ます。」
スタッフルームから爪切りを持って、その男性の隣にまた座り、爪を切っていた。
「これで良いですか?」
それを見た男性が…ニコリと笑顔で言った。
「アンタ…優しいねぇ。ありがとう。」
"え?爪切っただけじゃん…。ありがとう?何故?"
心でそう言いながらも、笑顔でその男性から離れた。
"喜ばれる仕事なんだな…"
内心、嬉しかった。辛い仕事だが、そんな一面もあり…その日を終えた。
そんな男性が…2日後に息を引き取った。
ショックだった。他のスタッフは、いつもと変わらない感じなのに違和感があった。
悠真は、そこを辞め…ヘルパー2級を取りに行った。
「常に目線を合わせて。」 「自分がして貰いたい事を、相手に。」「常に他のスタッフの動きを読んで、動く。」
徹底的に教わった。
それらを教え込まれ、次はデイサービスに勤める。同じ介護職だったが、スタッフ間の仲の良さ…それが心地良かった。
「やるなら、その日、笑って貰えるために、トコトンやってやろう!!」
悠真なりのポリシーがあった。
仮装してみたり、利用者の混じってメイクしてみたり、とにかく笑顔になって帰って貰う。
話を聞く時は膝をついて目線を合わせる。他のスタッフの動きを見て、その先読みをして動いていた。そんな楽しい仕事だったが…腰を痛め、辞めざるを得なかった。
腰の調子も良くなり、復帰した職場が…良くなかった。
何をしても怒られる。言われた通りにしても、粗探しをされ…また怒られる。良い事があって、それを他のスタッフに話すと…
「そんな事、当たり前。自惚れるなよ。」
悠真の口癖…『すみません』や『ごめんなさい』は…
ここで身に付いた。
それ以降、何をやっても続かない日々を過ごしていた。
その一部を…ママに話した。
ママは聞いた後でアッサリと言った。
「アヤ…それ、ただの僻みよ。」
「…僻み?」
「昨日のアヤの動きを多分、現場でもやっていたと思う。それを見た、仕事の出来ない奴の…単なる僻み。アヤは出来る人間なのよ。」
「…出来る?普通にやってただけなんですけど…。」
それを聞いたママがアヤの両肩に優しく両手を置いた。
「アヤ…アンタの普通のレベルが…高過ぎる。自信を持ちなさい。」
初めて言われた言葉に、意図せず、涙が出てきた。
「アヤ…アンタ…かなり、いじめられてきたんだね?此処は大丈夫。私がアヤを認める。」
何かが弾ける音がした。
止まらない涙にママがおしぼりをくれた。
「そんな顔じゃ、お客様に失礼よ。」
優しかった。
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