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太腿から脹脛までを冷やした効果があったせいか、アヤの足の痛みは和らいでいた。
「あともう少しだから…。」そう言って飲む痛み止め。
「アヤ!無理は禁物だよ!!」香織の言葉にも、耳を貸さなかった。
「何もやり遂げられなかった。でも、今なら…やり遂げられそうな気分。皆んなが居るから、頑張れる。」
「アヤ…。」ママの声にVサインをして見せた。
待たせてあった、人力車まで草履を履き向かう。東西を結ぶ通り。そこはもう、規制されていた。
愛彩がアヤだと知った観衆の数が更に増している。裏通りを通り、東側のスタート地点へと移動する。
「…あともう少しだから…お願いだから、言う事聞いてよね…。」
自分の両足に願う様に、そう言った。
見慣れない人力車に乗る…花魁を見る人々は皆、写真を撮ったり、声援を送ったりしていた。愛彩はそれらに笑顔や手を振る仕草で応えた。
先に車で移動していた…愛彩以外の一行の元に姿を現せた愛彩。
その顔は、太夫に顔をしていた。
「よーし!!アウェイの東側だが、今日は祭りだ!!アヤちゃんの凄さ、それを全観衆に観て貰おうじゃねぇか!!」
ヒデの言葉にも力が入った。
「アヤはもう、東西だけの美人じゃない。全国区の美人になったんだもんね!!見せ付けてやろ!!」
香織の言葉にママ、ヒデ、清春、直人が右手を強く突き上げた。
人力車を降り、用意された…高下駄の鼻緒に足の親指と人差し指を入れようとした。
アヤの身体能力と適応力の高さは、ここでも見せ付けられる。
重さ約40キロの衣装を見に纏ったまま、片足立ちの状態でもう片方の足の高下駄の鼻緒をスタッフに履かせて貰っていた。ヒデの肩貸し無しでだ。
そこから数歩歩くと、ヒデの肩に手を添えた。
「…アヤちゃん、お前さんはやっぱり、凄いよ!!」
ヒデの言葉に「…ありがとうございます。」と答えた。
東側スタート地点もまた、赤い幕が張られ…今か今かと、太夫一行を待つ観衆の視線が集まっていた。
「用意は宜しいでしょうか?」野田の言葉に、一行は頷いた。野田は拍子木を持つ、スタッフに合図を送った。
拍子木の【カンカン!!】の音と共に叫ばれた言葉。
「愛彩太夫の御成り〜!!」その言葉で赤い幕が外され、
一行の全貌が明らかになった。
【シャンシャン!!】金剛引きの男性が地面を2回付いた。
「御成り〜。」提灯持ちの清春、禿のママと香織も金剛引きの音に合わせ、ゆっくりと歩き始めた。
「いよ!!アヤちゃん!!待ってました!!」
観衆の1人がそう言うと
「いよっ!!日本一!!」と合いの手を入れる観衆。
ヒデの肩貸し…金剛引きの【シャンシャン!!】の音に合わせ、外八文字を描きながら視線は、ひたすら真っ直ぐ見据える愛彩が現れると、拍手で迎えられていた。
「なんか…ワクワクするっすね!!」傘持ちの直人がアヤに聞こえる様に言った。
「アヤちゃん!!綺麗!!」
「アヤちゃーん!!こっち向いて!!」
時々、愛彩は観衆に目をやり、微笑んでいた。
普通歩けば、10分も掛からない東側の通り。そこを40分程掛け、歩き切った。残るは…アヤやママと香織、ヒデ達のホームとも言える西側だけとなった。
数十メートルの交差点の横断歩道を人力車で移動する。
その度に、太腿や脹脛を冷やし続けた。
「…やっと…ここまで来た。もう少しだから、お願い。」
西側のスタート地点もやはり、赤い幕が張られ、東側同様にスタートされる。
通り慣れたその西側通り。そこも、普通なら10分程度の道のり。それを40分以上掛け、見事、やり遂げる事が出来た。
後で、地域振興会の柴田に聞いた。推定約20万人の人手があったそうだ。通りに並ぶ露店にも、良い経済効果があったのは、言うまでも無い。
太夫…愛彩はまた、全国版のニュースで放映された事も…言うまでもなかった。
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