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花魁道中を終えた6人の姿は、打ち上げ会場となった...ママの店にあった。
地域振興会の関係者も交えて、貸し切りにしていた。
料理などは事前に、地域振興会が用意していたものを持ち込んで、盛大にやっていた。
アヤの姿はカウター席にあり、全身筋肉痛の状態。特に下半身。太腿や脹脛はアイシング。
高下駄を履いていた足の指は皮が剥けた状態で腫れあがり、外八文字の動きの過酷さを物語っていた。
正に、満身創痍の状態。
ママと香織...時にはヒデがヘルプに入るという、異例の状態だ。
「本当なら、私がやんなきゃならないのに...。」
そう言うアヤを全員が口を揃えて言う「ダメ!!」
「今日はアヤは良いの!!大役を見事にやり抜いた。そんな状態で出来る訳ないでしょ?」
香織の言葉にその場の全員が頷いていた。
「足袋でも履いていたら、足の指がそんな状態にはならないのに、素足であれだけの距離を歩き抜いた。そりゃ、皮も剥けてしまいますよね。」
太夫...愛彩の背後で傘持ちをしていた直人が、そう言った。
「素足で歩く意味...ちゃんとあるんですよ。」痛みを堪えるアヤがそう言った。
「えっ!?意味があるんですか?」直人がアヤに聞いていた。
「人がやらなかった事を、考え出して注目を集めるのが、上手だった勝山が考えたんです。”歩く度に着物が裾から素足が見え、観衆喜ばせていた”って書いてましたからね。それに高下駄の裏を周囲に見せて歩く”外八文字”。元々は”内八文字”だったんです。その伝統を勝山が、吉原遊郭史上初めて外八文字で歩いた。勝山って、あれこれと、初めてやる事だらけを成し遂げた...ある意味、アムロちゃん的な存在だったんですよ。」
「さすがアヤ!!ネットで調べ上げただけの事があるわね。」
既にほろ酔いのママがアヤを褒めていた。
「普通の着物って、帯は後ろですよね?なのに、花魁は前。それにも意味があるんですか?」
提灯持ちの清春もアヤに聞いてみた。
「帯は柄や刺繍がよく見える結びの部分が最も美しい。この部分と自分の顔と共に正面に配置することで”周囲に最も美しい自分を見せる”というのが、帯を前で結ぶ理由の最も有力な説みたいです。」
「アヤ...アンタって、歩くパソコンなの?」
香織の言葉に店内の皆が笑ってその場の雰囲気を和ませた。
「でも...私はやり遂げた。憧れだった花魁の衣装。予想よりは重かったし、高下駄を履いて外八文字。想像以上の過酷さだった。でも、その分...
大いに楽しめた。悔いはない。」
アヤのその表情を見て、ママも香織も...その場に居た誰もが満足していたアヤに微笑んでいた。
その時だった。貸し切りの店のドアが開き、店内の全員がそちらに目をやった。
「私達も混ぜてよ!!」
見覚えのある顔に少し時間は掛かったがすぐに、思い出した。
ガールズ・コレクションのモデル達だった。
「あっ!!お久し振りです!!でも、全員...入るかな?」
「別に立ったままでも構わない。私達はアヤちゃんのお祝いに加わりたいだけだから。」
モデルの一人...中心人物が後ろを見返しアヤにそう言った。
「そこで立ってるままじゃ、なんだから、中に入って貰ったら?」
ママの言葉にアヤは頷いた。
「さすがに、全員じゃないから...。」申し訳なさそうに入店するモデル達。
10人程度だったが、店内は今まで経験した事のない満員状態。
モデル達は、満身創痍のアヤを囲むようにそれぞれが、楽しんでいた。
「昨日の敵は今日の友...アヤは皆を惹きつける。本当に不思議な子ね?」
ママが香織にそう言っていた。
「ホント、不思議よね?まぁ、それがアヤの魅力でもあるんだろうけどね?」
アヤ自身が気づけなかった部分。本当は疲れきっていたアヤは、満面の笑みでモデル達と会話を楽しんでいた。
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