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アヤと同じく…いや、それ以上の"楽しさ"を求める香織。言えば必ず、飛んで来る…。
やっぱり…飛んできた。
「なにそれ!?良いじゃん!!やろうよ!!」
この言葉に頭を痛めていたのは、アヤ本人。花魁道中の筋肉痛よりも、酷い痛みの様なモノが走った。
ママの自宅に来るなり、大喜びする香織と不安気なアヤ。
「写真集なんて!!凄いじゃないの!!何迷ってるのよ!?」
「…あの、私はオトコだよ?どこの物好きがそんなモノ買うって言うんですか?」
「アヤ…身体は確かに男。でも、心と表現したいのは?どっち?」
「…表情したいのは…女性。心は…どっちでもない。」
「その表情したい自分…つまり、アヤが見たいって思う人が居るから、写真集を作りませんか?って事でしょ?需要があるから、雑誌社として企画する。当たり前の事じゃないの?」
「言いたい事は分かるんです。でも、まだ…花魁の格好して間が無い時に、そんな連絡が来たら…困るっていうか…どうしたら良いのか、私には分からない。」
「まぁ、盆と正月がいっぺんに押し寄せたら、誰だってそうなるわね。」ママの言葉がアヤの気持ちに、しっくりきた。
「良い?アヤ。世の中にはね、写真集を出したくても、出せない女性が山ほど居るのよ?それがアヤはどう?雑誌社から依頼が来てるんだよ?チャンスが向こうから来てるのに、掴まない方が私としては、どうかなぁ…って思うけどね?」
「私が…こんな私になって、まだ一年も経って無い。なのに、あれやこれやと色々と起きすぎて、頭が追いついて無いんです!!」
「アヤの言う事も分かる。確かに一年経たずに、よくここまで来た。今まで生きて来た何十年もの歳月が無駄だった。生まれ変わったアヤとして、華開いた。今まで眠っていた獅子が起きたら、とんでもない事になった。」
ママはビールを飲みながら、アヤを見てそう言った。
「そもそも、私の人生って…何なの!?男の私は邪魔者扱い。でも、表現を変えた私は、あれやこれやと…気がつけば、写真集の依頼。今まで生きてきた自分を、否定されてるようなものです。」
アヤの頭の中は大混乱していた。
「アヤ?こう考えてみたら、どう?今まで男として生きてきた素材は合わなかった。でも、自分のなりたいと思っていた表現をする事によって、本来あった素材が生きてきた。そう考えると、アヤが今の時代に合ってきたのよ。」
ママの説明は、なんとなく…分かっていた。
「よく考えてごらん。東西美人大会から始まったアヤの人生。そこから波及してのガールズ・コレクション…。今やあちこちで噂になってるアヤなんだよ?花魁道中もやってのけた。一年足らずで、よくここまで登り詰めた。私の人生の中では、アヤ以外に居ないのよ?」
長年、夜の世界を生きてきた…ママの言葉。確かに説得力がある。
「私は…お店の中だけで良かったのに…。」アヤは贅沢な悩みを抱え込んでいた。
「でも、世の中は…それを良しとしなかった。こうなる運命だった。ただ、私が言える事は…やった後悔より、やらなかった後悔の方が…後になって響くものよ。」
アヤ自身も分かっていた。一つ一つの事に困惑しながらも、それをやってのける。ここまで、色々あった人生。
東西美人大会に出なかったら?ガールズ・コレクションに出なかったら?花魁道中に出なかったら?
今の楽しさは、生まれてこなかったのでは無いか?
「アヤは、楽しいと思う方向を見つけた。その見つけた方向が実は、正しかった。楽しいが正しいって、そうある事じゃ無いのよ?」
香織の説得にも似た…その言葉で、自分自身を納得出来るように落とし込もうとしていた。
「…いつもの様に、香織さんが私を変えてくれたら…良いんだよね?」
「そう言う事!」
そう言う香織のニヤリと笑う顔は…いつもの、ズルい笑顔だった。
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