Binary Star

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雑誌社に写真集の件を快諾したアヤ。 昼間は香織を連れて、雑誌社との打ち合わせを行い、夜は店で働く。これを幾度となく続け、撮影当日を迎える事になった。 気がつけば、季節は梅雨が明け、あの気だるい季節…夏を迎える寸前だった。 驚いた事に、東西美人大会での姿や、ガールズ・コレクションでのランウェイや歌う姿など、花魁姿や花魁道中の時の写真が既に現像されていた。 そこに新たに、夜の世界で働くアヤの姿や、日常…オフの時間のアヤの姿を付け足す事が分かったのは、撮影終了間際だった。 打ち合わせの段階で、それらをアヤに告知すると、断られるのでは?と言う…雑誌社からの言い訳にも似た言葉だった。 たったの一年で…アヤは写真集を出すと言う、異例のスピードデビュー。 それらは、夜の街のみならず、ワイドショーなどでも取り上げられる程だった。 "夜の街に輝くアヤとは…どういう人物なのか?" これには、ネットの世界でも色々と騒がれ出した。 ママと普通に出勤する姿。それさえも最早、噂の対象。 いつものカウンター内で動き回るアヤに、常連客達も驚きを隠せなかった。中には、発売日初日に買って、わざわざ持って来る客も居たのには、流石に困り果てていた。 「今じゃテレビのワイドショーでも、名前が出てくるんだもんな…。そんなアヤちゃんが今、目の前にいる。写真集の中のアヤちゃん本人が…目の前に居る。凄いよね?」 「…いや、あの、そんな大した…凄くないんですよ。」 「でも、写真集の販売も好調だっていうじゃないか?」 客の1人がそう言った。 「世の中…珍しい方が沢山居るんですよ。」と、他人事の様に言うアヤは、まだどこかしら…気持ちの整理がつかなかった。 「この店の中で、アヤの写真集を見た方、挙手をお願いしまーす!!」定位置のカウンター席に座る香織の言葉。 「ちょっと!!香織さん!!」 「なに?良いじゃない?」振り返り、周りを見回すと殆どの客が手を挙げていた。 「…えっ…嘘でしょ…。」 「そりゃ、買わずには居られないよ。アヤちゃん目当てで来てるんだからさ。」 客の言葉に苦笑いして見せるのが、精一杯だった。 そんな時、店のドアが開いた。 「いらっしゃい…あぁ、ヒデさん!!こんばんは。ボックス席、空いてますよ。どうぞ。」 「おやおや。写真集デビューしたアヤちゃんじゃないか?なかなか、良いね。写真集。」 「…えっ…。」 「おい。キヨ、ナオ。」ヒデがそう言うと、3人とも写真集を持っていた。 「自分としては…嬉しいけど、ちょっと寂しいっすね。」 清春がそう言うと、パラパラと写真集を見ていた。 「…あの、目の前でそうやって見られるのは…本望じゃ無いんですけど…。」 アヤは敢えて目を逸らしてした。 「いや、やっぱプロのカメラマンは違いますよね…。変な撮り方するカメラマンだったら、指一本ぐらい飛ばしてやろうかと思ってましたよ。」直人のそれは…本当にやりかねないと…少し怖かった。 「あら?じゃあ、やっぱり需要があったって事よね?やって良かったじゃないの?」 「…良いんだか、悪いんだか…私には分からないんですけど…。」 「俺なんか、この花魁の姿…。」直人がそう言って開いたページ。それすらも、まともに見れなかった。 「わ、分かりました。分かりましたから、閉じて下さい。」 自分の写真集を…自分が見れないと言う…謎な現象。 「初版5万部、ほぼ完売だもんね?」香織が追い討ちを掛けた。 「へぇ!!それじゃ、増版の可能性もあるって事だな!?」ヒデは、かなり食いついていた。 「増版の可能性よりも…別の写真集の話もあるんだもんね?ねぇ?アヤ。」 ほろ酔いの香織の笑顔がズルい時の…あの笑顔。それが大嫌いに思えてきた。 「おいおい!!別の写真集!?なんだい!?そりゃ!!」 ボックス席を立ち上がりカウンター内のアヤに詰め寄るヒデ。 「…もう、どうして余計な事言うかな…。」 「余計な事なんかじゃないぜ!!西側の者としては、鼻が高い!!どんな内容なんだい?ん?」 「沖縄で海を背景に撮影。夕陽を眺めたり、その夕陽を背景にしたり…そんな企画が上がってるんだって。」 香織はいつも…自分の事以上に嬉しそうに話す。 それが時々…憎い…と、感じるアヤだった。
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