Binary Star

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毎年のように...やってくる、この季節が...大嫌いだった。 真夏の日差しが頭上近くにくると、全身から溢れる感覚の汗。 大した動きもしていない日のに、額の汗を拭うのが億劫だ。自宅の前にあった公園の日陰を見つけては、そこに逃げ隠れしていた。 自宅に居ても古いエアコンは電気代が掛かる。かと言って、全く電源を入れない訳にはいかない。 汗ばんだ体を洗うには、ガス代が掛かる。 出来るだけ、電気・ガス、水道代は掛からない様に...節約と言えば、聞こえは良いが単に無職な為の言い訳だった。 「何をしても続かない。」「根性が足りない。」「いい年して無職だなんて。」 そう言った言葉で片づけられた日々を送っていた。 「悠真!!」そう呼ばれた方向を見た。母親の険悪な雰囲気がその声に表れていた。 日陰に隠れていたせいか...母親は悠真の姿を探せずじまい。 「...ふぅ。見つからずに済んだ。」 仕事も無ければ、お金もない。有るのは...時間だけだった。 「どうせ...何しても続かないんだし...。何をして良いのやら。」 この「どうせ」が口癖となり、変に納得させる事が出来た。 「まぁ...金が無ければ恋人だって出来やしない。この世の中は金が支配してるんだし...。」 コンビニの出入り口にあった...無料の求人誌を手に、パラパラと捲っては溜息をつく。 「俺は...何がやりたいんだ?」 太陽の動きとともに、動く日陰に悠真の動きもそれに合わせた。 「日雇いかぁ...。とりあえず、何かしないとな...。」 丁度、日雇い派遣のページを見ていた。 「でも、体力が無くて続かないしなぁ...。」 日雇い派遣の仕事は単純作業か、肉体労働が殆どを占めていた。 そんな悠真が日陰で、今後の事を憂いていると、少し先の...日陰のあるベンチに同い年の様な男女が座った。 「恋人...か...。そもそも、あの2人は...お互いに満足してるのかよ...。」 悠真がそう呟くのには、訳があった。 悠真にも...恋人と呼べる異性は居たことがある。勿論、そういう行為も経験があった。 目の前の女性は...確かに好きだし、裸を見れば興奮もした。ただ...何かが...違った。その違和感を覚える度に...自分の存在を考える様になった。 「俺は...男...なんだよな?恋愛対象は...女。いや、女の何が好きなのか?」 悠真には3歳年上の姉が居た。とっくに嫁いでいるが、幼い頃から...姉のお下がりの服を着せられたものだ。 女系家庭で育った悠真。母親・祖母・姉・犬や猫...インコまでが”女”。 何かの決め事は多数決。男の悠真は『不利』だと分かっていた。 なので、女性陣の言いなりとなってしまっていた。それは、思春期を迎えるまでそうだと思い込んでいたからだ。
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