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目の前の…日陰のベンチに座る男女は、少なからず、お互い同士が好きなのだ。
「まぁ、他人様の事をごちゃごちゃ言う立場じゃないもんな…。」
そんな風にその2人を見ていた。やがて、2人は手を繋ぎ、別の場所へと移って行く。
その2人を見送ったわけでも無かったが、悠真もその日陰から家の中に戻っていった。
もちろん、母親に気づかれない様に…。そうは言ってもエアコンをつけられない部屋は、温室と化していた。
「うわぁ…やっぱ、無理だ…。」
忍び足で裏手から外に出た。我が家なのに、泥棒の如く出入りしなければならない…変な気遣い。
行く宛も無い。
こんな時は、パチンコ屋かコンビニに入り、涼むことも出来た。
「…行きたくないけど、パチンコ屋でも…行くか…。」
特にギャンブルが好きなわけで無い。あの音が…苦手ではあったが、この暑さには変えられなかった。
パチンコ屋の休憩所には、漫画や新聞など置かれて自由に見ることが出来た。パチンコ屋に置いていたスポーツ紙…僅かだが、求人欄があった。
「…こんな求人、あるんだ?」
悠真の目についた求人は…接客業とあったが、店の名前が…ただの接客業とは違うのは悠真にも分かった。
"ゲイバー…"
「…ゲイバーって、要は…オカマってことだよな…。」
テレビで観た事があった。
ド派手なメイクと衣装を着た…男女の様な生き物が接客し、ショーを演じてたりしていたのを…頭の中で想像しただけで、効いていた冷房が余計に、ヒンヤリ感じた。
「…さすがに…俺には無理かな…。」
しかし、時給の良さに加えて、賄いまで付いてる。未経験者大歓迎。その文字に…惹かれた。
「まぁ、こんなど素人が行ったところで、追い返されるに決まってるさ…。」
スマートフォン片手にその、求人の電話番号を押していた。
賑やかしいパチンコ屋から少し離れると灼熱の太陽が待っている。その中でも日陰を見つけると、そこで通話ボタンを…押した。
3コール目が終わった時に聞こえた…ドスの効いた声。
『…はい。もしもし?』
その声に…躊躇った。か細い声で…悠真が「…あの、はじめまして。スポーツ紙の求人を観て、お電話させて頂きました。」
と、言うと急に声のトーンが変わった。
『あらぁ。そうなのね。へぇ、物好きも居るんだ?』
少し…色気のある声で…しかし、物好きとは…。悠真は時給と賄い付きの文言で、自分から電話したのだから、ある種の物好きと言われても仕方ないと、割り切った。
「…あの、全くの未経験なんですけど…そんな自分でも、大丈夫…でしょうか?」
『その声からしても…ウブな感じね?一度、来て見なさい。』
「では、履歴書を書いて…。」
『そんな物…要らない。夕方4時に◯◯ビルの5階のハッピーランドって店に来なさい。』
「…えっと、履歴書無くても良いんですか?」
『そんな紙切れだけじゃ、人なりってもんが分からない。夕方4時に。じゃあ。』
そう言って、電話を切られた。
「…履歴書…要らないって…。まぁ、夕方4時に行けば良いか…。」
その時間までは後、2時間あった。
悠真は再び、パチンコ屋の中で涼しく時間を潰そうと思った。
それが…悠真の今後の人生の分かれ道になるとは…思いもしなかった。
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