Binary Star

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ゲイバーのに指定された時間よりも15分早くに《ハッピーランド》に到着した悠真。 着替えもせず、そのままドアの前に立っていた。 トップスこそ、メンズだが…ボトムスはレディース用のワイドパンツにスニーカー。 普通の企業なら「面接舐めてんのか!?」と言われる格好。 「まぁ、履歴書も要らないってぐらいだし。でも、こんな格好だったら…ダメだよな…。」 興味本位もあった。ダメで元々。雰囲気さえ、知れれば良いや…ぐらいの気持ちでそのドアを開けた。 「…あの、求人の電話した者なんですが…。」 恐る恐る、そう言って中に入った。 「へぇ〜。キミなんだ?」 多少のメイクはしていたが、見た目はどう見ても…『オジサン』そのもの。その男性がカウンター内からゆっくりと出て来て悠真を舐め回す様に見ていた。 「まぁ、座んなさいよ。」 「…はい。」 見た感じ、カウンターに10人。ボックス席が2つのこじんまりとした内部。 それらを見て、カウンターの真ん中に案内された。 「暑かったでしょ?まぁ、お冷でも飲みなさい。」 そう言って悠真の隣に座った。 何度かスナックに行った事がある…見慣れたグラスにアイスピックで割られた氷の入ったお冷を出された。 「…ありがとうございます。」 緊張…というか、何とも知れない気持ちで…目の前のお冷を手に取った。 「…で、いつから来れるの?」 お冷を口に運ぼうとした時だった。 「…えっ?」 「今日から…やってみる?」 「…いや、あの…こんな格好ですけど…。」 突然の…『今日から…』に戸惑っていた。 「トップスはメンズ。ボトムスはレディース。でしょ?」 ニヤリと笑いそう言った。 「…はい。よく分かりましたね?」 「まぁ、トップスは別として…ボトムス。ワイドで裾をそんなに折る履き方…レディースって…私でも分かるわよ。」 「そう…ですよね…。メンズのサイズが大きくて…どうせならって思って、履くならレディース用を履きたくて。」 「背は?」 「…あ、身長は…171ぐらいです。」 「そう。体重は?」 「…57キロを少し割ってます…。」 「…スタイルは、良さそうね?」 「良く言えば…そうですけど、悪く言えば…。」 「ひ弱…でしょ?」 そう言われると笑いが出た。 「すみません。突然、笑ってしまいまして。はい。ひ弱です。」 内心…"あぁ、帰りなさい"って言われるな…と思っていた。 「あら?笑った顔も良いじゃない。気に入った。今日からやってみる?」 怪しく笑うママの顔に…思わず、頷いてしまった。 「そのお冷、飲んでしまいなさい。」 「…はい。」 グラスのお冷を飲み干した。それを見て、ママがカウンターの中へ誘った。 俺のゲイバー初日の始まりは…そんな感じだった。 一通りのやり方は聞いた。 「…すみません。メモとペンを持ってくれば良かったですね…。」 そう言うと表情が一変した。 「子どもじゃ無いんだから、見て・聞いて覚えなさい!!」 令和の時代に…昭和なやり方な職場。それが、妙にしっくりきた。
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