Binary Star

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「おはようございます。」 店のドアを開けると…カウンターの中に、ママの姿があった。しかし唖然として悠真…アヤを見ていた。 「あの…どうかしましたか?」 「アンタ…来たの?」 「はい。昨日と同じ時間にって…言われたので…。」 そう言うと、カウンターの中でゴソゴソしていた。 アヤはゆっくりとドアを閉め、その場に立ったまま、ママの次の言葉を待った。 「…何、突っ立ってるの?こっちに来なさい。」 「…はい。」 自分は何か悪い事をしたのか?と思い、恐る恐るカウンターの中に入った。 「はい。これ。」 ママから渡された茶封筒。 「…なんですか?これ?」 「来ると思わなかったからさ。昨日の分よ。」 「…昨日の分?」 「…給料に決まってるでしょ?」 「…中を見ても良いですか?」 「どうぞ。」 茶封筒に一万円札が2枚…入っていた。 「えっ!?」思わず出た言葉がそれだった。 逆に…唖然としたのはアヤだった。 「何?文句あるの?」 ニヤリと言うママがアヤを見ていた。 「いや、あの…こんなに頂いても…良いのかと…。」 「それだけの働きをした。だから、その金額よ。」 茶封筒を持ったままのアヤにママが優しく言う。 「早く仕舞いなさい。」 「ああ、はい…。」 信じられなかった。時給に換算すると、幾らなのか? ママの言ったとは?なんなのか? 分からないまま、紙袋の中に入れた。 「あの…ママ…。」 「何?」 アヤが紙袋の中から…姉の部屋にあった赤いブラウスを見せた。 「あら?良いじゃない?着るの?」 「着ても…良いんですか?」 「良いも悪いも、アヤの好きな格好しなさい。うちは、裸と下着姿意外なら、なんでも良いんだから。」 それを聞いてやっと笑顔になれた。 「それ…誰の?」 「あぁ、嫁いだ姉の部屋にあったんです。置いていった物だから、別に良いかなぁ…と思って…。」 「ちょっと着てみなさい。あ、今着てるシャツは脱ぎなさいよ。」 「はい。」 嬉しくなって急いでトイレに入り、着替えた。 「変?…どうなのかなぁ…。」 そんな独り言を言って、トイレから出て来た。 「ママ…変かな?」 「良いじゃない。今日はそれ着て出なさい。」 初めて…認められた気がした。 「はい!!」 そう言ってカウンターの中に入るアヤの腕を、ママが掴んだ。 「紙袋の中身。大切な物が入ってるでしょ?」 給料の事など忘れるぐらい嬉しかった。笑顔のまま、紙袋の置き場を聞くと、奥のキッチンの隅に置く様言われ置いた。 キッチンから出て来るとママが見つめていた。 「アヤ…ちょっと良い?」 その顔が…ニヤリとした顔では無く、真面目な顔をしていた。 「はい…。」 "今日で…クビ…とか、言われるのかな?" 内心、ビクビクしたまま、ママに近寄った。 「アヤ…。正直に言ってみなさい。」 「…はい。」 「アヤ…初心者じゃないでしょ?」 「えっ?」 ゲイバー…ましてや、水商売など…やった事は無かった。 「あの…。本当に初めてなんですけど。」 それを聞くと、ママが溜息をついた。 「何か…失礼な事をしましたか?」 そう言うアヤをママが睨む様に見た。 「全くの初心者の…ズブの素人の動きじゃ無い。」 「…はい?」 「接客業…した事あるんでしょ?」 「まぁ、アルバイトですけど、スーパーのレジ打ちや喫茶店で少しだけ…です。」 「…それだけ?」 「はい。それだけです。でも、どれも長続きしなくて…。唯一、3年ぐらい続いたのが…介護職ぐらいです。」 それを言うとママが納得した。 「それね。アヤの動きは。」 「動き…ですか?」 「アヤ…介護の資格持ってるの?」 「一応、昔のヘルパー1級…今は実務者研修って言うんですけど、それを。」 アヤを見つめていたママがやっと笑顔になった。 「アヤ…。この仕事、向いてるわよ。」 「えっ?」 アヤには、分からなかった。介護職とゲイバー…何が関係しているのか?を。
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