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森の中間あたりか。向こうから物音がした。鎧をつけて騎士の格好だが、何者かが剣を振り回してアメーバーを切り崩していた。
「ロメオ! ここまで迎えにきてくださったのね」
「カレン! 大丈夫だったか」
ロメオはアメーバーを振り払い、かけよる。深い青色の目に、爽やか系の整った顔立ち。うん、私も惚れた。性格が顔にもあらわれている。
そうでしょ、とカレンの思い。なによりロメオとお喋りがしたい。
「小百合という背後霊のおかげで。魔女様にもお会いしましたわ」
「怖くはなかったか。俺がこの剣で成敗してあげよう」
頼もしい男性だ。
「良い人よ。お土産も貰ったし」
そうして、近くの木の枝から仮足を切って液汁を飲ませる。
「これは! ワインより旨い。カレンは料理上手になる」
なぜそうなるのか、男心は分からない。
「食える。リンゴみたいだ」
仮足の切れ端まで食べてしまう。豪快な咀嚼が頼もしく思えた。
「まあ、ほんとだわー」
カレンもおちょぼ口でかじると、ハンカチで口を拭く。やはり好きな男性の前では、上品さを演じるのだろう。
木の枝の兵隊も味方につけたから、出口までは楽しく歩いて行けた。ハグしたり手をつないだりしないのは物足りないが、視線を絡ませ合い、微笑む。
~こういう純情な恋も良いね~
(はしたないと思われるから。でも、もうちょっとねー)
カレンとしてはロメオが積極的に迫るのを期待もしていた。
「待ち伏せか」
ロミオが前をうかがうようにする。幌馬車と十人の騎士が立っていた。
「王家の馬車だわ。きっとジュレアン王女よ」
カレンが話す間にも騎士たちが近づき、後ろに煌びやかな衣装のジュレアンが続く。
「カレン。通り抜けたと思うなよ。エブリスタンツ王国の勇者が相手だ」
「王家の人がすることですか。もう、敬語なんかつかってあげない」
公爵家と王家は親戚にあたり従姉妹でもある二人。2歳下のジュレアンが何かに対抗意識を持っている感じはする。
「じょうとうだ。ここで、ロメオと一緒にはさせないから。勇者シーモベ、やっちゃいなさい」
それが合図なのか、一人の騎士が剣を振り上げてロメオへ近づく。
「おれを公爵の嫡男と知ってのことか」
ロメオは応戦する。
「王女様の命令だ。容赦はしない」
がしゃっ、ぶつかる剣。
もう片手で相手の胸倉をつかんで押さえ倒そうと競う二人。
「やっちゃえ」
ほかの騎士も襲い掛かる。ここは私がカレンの身体を動かすときだろう。
「多勢とは卑怯なり」
カレンは剣を構えると後ろから「突き」で転ばせて行く。
「小手だ! 面だ! どうだ。まだ歯向かうか」
転がる騎士たち。
「おのれー。小娘が」
態勢を立て直してカレンを囲む。
「奥義、剣の舞。しかと見届けなさい」
カレンは大上段に構えて、腕を交差させる。どこから打ち込んできても応戦できるスタイルだ。よほど自信がないと、身体の前面を開いてみせない。
打ち込もうとする騎士へ、くるっと振り向く。それだけでびびったか後退する。
回転しながら、しゅっ、しゅっ。剣を振り下ろすカレン。騎士たちは戦意喪失したようだ。
ロメオはジュレアンへ近づき、宣言する。
「ジュレアン王女。目を覚まされよ。隣国の王子との婚約を受け入れられよ。俺の嫁になるのはカレンだ」
「会ったこともない方とは嫌じゃ。それに、がさつらしい噂も聞く」
「顔はごついが、いい男だぞ。俺は会ったことがある。おれが保障しよう」
「ロメオ様が申されるなら。いちど会ってはみたいものだ」
「公爵家で席を設けよう」
これで三角関系は解消したのだろうか。あとはロメオとカレンの甘い恋愛のはず。
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